関係編(二十九)

 クリスを授業で犯していたら、俺はちょっとした疑問が浮かんだ。

 こいつはよく男を誘って寝る。

 だが、こいつは会社から出る事が出来ねえ。

 となると、関係を持つ相手は限られてくる。

「お前、いつか会社中の男全員と関係持つ事になるんじゃねえか?」

「先生なに言ってるの? そんなの無理に決まってるじゃない」

 まあ、これはものの例えだ。

 軟禁状態のクリスには、出会える社員も限られてるからな。

 全員とやる事はまず有り得ねえ。

「だが、お前が手当り次第誘ってたら、いつか出来そうじゃねえか?」

「挑戦させたいの?」

 クリスが明らかに不機嫌になる。

 こいつに、誰とでも簡単に寝るなって注意してるのは俺だし、まあ、そうなるよな。

「そうじゃなくて、可能性の話だよ」

 本気で挑戦されたら困るから否定しといた。

 だが、クリスは不機嫌なままだ。

「本気で言ってるの?」

 自分でもおかしな事を言ってるのは承知の上だ。

 だが、俺だって色々考えてるんだ。

「これでも、かなり真剣に心配してるんだが……」

「この会社の未来を?」

 なんでいきなり会社の未来が出て来た?

 考えが明後日の方向過ぎるだろ!

「会社の事なんか心配してねえよ! そんなもん、お前の心配に決まってるじゃねえか」

「先生……。僕は全員と出会う機会もないし、どう考えても無理だよ」

 クリスはもう怒りを通り越して呆れてやがる。

 言われるまでもなく、俺だってそんな事は分かってるんだよ。

 だが、相手がクリスとなりゃ話は別だ。

 こいつが誘えば、全員落とせそうじゃねえか。

「お前に、落とせねえ奴なんていねえだろ」

「先生、正気?」

「正気だよ」

「性病が脳に来たんじゃない?」

「俺は性病じゃねえよ!」

 とんでもねえ方向からけなして来やがった!

 こいつの脳みその方こそなんか湧いてるだろ!

 とりあえず、そんな事より軌道修正だ。

「それより、いるのかよ?」

「当たり前じゃない。僕をなんだと思ってるの?」

 サキュバスとかインキュバスとか、そう言うのいたよな?

 だが、こいつは色々才能があるから、どっちかてえと全知全能の神と言ったところか。

 そんな奴に落とせねえ相手がいるなんざ、全く想像も出来ねえ。

「じゃあ、例えば誰だよ」

「ええと、具体的に一人あげるなら副社長かな。あの人は絶対に落とせないと思う。まあ、挑戦する気もないけどね」

「クリスでもか?」

「あの人は僕の事が大嫌いだから、まず有り得ない」

「あの時のガキにやったみたいに挑発してもか?」

 前に、俺に惚れてるガキを諦めさせるのに、クリスに誘惑して落として貰おうとした事がある。

 まあ、相手がクリスを押し倒した辺りで、俺が止めに入っちまった訳だが、あのままやってりゃ落とせてたに違いねえ。

 だが、副社長はそうじゃあねえらしい。

「僕を殺そうとするかも知れないけど、犯しはしないだろうね」

 例えだとは思うが、殺そうとするとか穏当じゃねえな。

「なんでそんなに恨まれてるんだよ……」

「副社長は社長の事が大好きなんだよ」

 なんだ?

 社内恋愛とかそういう奴か?

 だが、それとクリスとどういう関係があるんだ?

「なんで社長が出て来たんだ?」

「副社長は社長の事を上司として敬愛しているんだ」

 そう言う好きか!

 だが、そこにクリスがどう絡んで来るのか分からねえ。

「クリス、お前まさか社長と寝てるのか?」

「寝てないって!」

 確かに前に否定されたが、この流れだったら、それ以外考えられねえだろ。

「じゃあ、なんでだよ」

 クリスはため息をつくと、面倒臭そうに説明をしてくれた。


 なんでも、クリスが会社に来たばかりの頃、授業の成績や知能テストの結果を受けて、クリスをどうするか会議が開かれた事があったらしい。

 その時、副社長はクリスを会社におく事に猛反対したそうだ。

 だが、社長は副社長の意見を却下した。

 その確執かくしつがあって、副社長はクリスを憎んでいるらしい。


「まあ、色々あるけどメインは嫉妬だね。僕が社長から特別待遇を受けているのが気に入らないんだよ」

 なんだ?

 複雑な三角関係か?


「お前、本当に社長と寝てねえんだよな?」

「先生、執拗しつこいよ!」


 油断していた俺のみぞおちに、クリスの蹴りがヒットした。

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