自白編(二十五)
「ねえ、先生。昨日は茶化しちゃったけど、自白したいならちゃんと聞くよ?」
クリスは教室に入るなり、真面目な顔で言って来た。
俺の自白を阻止した事をクリスなりに気にしてくれていたらしい。
クリスは案外、こういう優しいというか、周りを気遣うところがあるんだよな。
言っていいんなら、クリスに聞いて貰いてえ事は山程ある。
よく分からねえが、クリスならなにか別の答えを導き出してくれる気がしたんだ。
「聞いてくれるのか?」
「うん。でも、僕の過去は話さないけどね」
そう言って、クリスはニヤリと笑った。
「ああ。期待してねえよ。言いたくなったら教えてくれ」
「そんな時は来ないけどね」
クリスは軽口を叩いてやがるが、秘密主義にも程があるだろ。
「まあ、警察に言ってねえところも話すから、お前の意見を聞かせてくれ」
「分かった」
クリスが頷くのを確かめてから、俺はあの時の事を話しはじめた。
「あの時、俺は自分の部屋で、恋人と同棲してたんだ」
だが、俺が部屋に帰ると、女が男連れ込んでセックスしてやがった。
浮気してる上に、俺の部屋に連れ込んでやってるんだ。
こんなもん許せる訳がねえ。
それで、俺は二人とも殺ろうと思った。
男が逃げようとするのを捕まえて引きずり倒すと、玄関にあった傘を突き刺した。
だが、このくらいじゃなかなか死なねえ。
だから、何度も何度も滅多刺しにしてやったよ。
悶え苦しむ様を見て、堪らなく興奮したのを覚えてる。
目に突き刺した辺りで大人しくなったから、今度は女の方だ。
女は男が殺されてパニック状態さ。
俺は男を殺して興奮してるし、ちょうど全裸の女がいりゃあ、そりゃ犯すよな?
で、散々犯した後に、やっぱり傘で刺して殺したんだ。
ここは俺の部屋だし、このままじゃ生活出来ねえ。
俺は死体をどうやって始末するかを考えた。
とりあえず、俺は血がついても大丈夫なように、二人の遺体を風呂場に運んだ。
その後、バラバラにする為に、俺はチェーンソーと袋を買いに行ったんだ。
帰ってすぐ俺がにした事は、玄関とか血のついたところの掃除だ。
血がついてるのはフローリングにコンクリートだから、血を綺麗に洗い流した。
俺は風呂場で二つの死体の解体作業をした。
まだ女には息があったみてえだが、そんな事は俺の知ったこっちゃねえ。
生きてるまんま切り刻んでやったよ。
二人分バラバラにしたら、車に積み込んで車で片道一時間くらいの距離にある山に、何ヶ所にも分けて埋めた。
頭の部分だけは、よそに埋めた方がいいだろうと思って、車でもうちょっと先まで行って埋めといた。
女が無断欠勤したら勤め先は心配するよな。
でも、俺はそんな事は知らねえ事になってるし、緊急連絡先はたぶん実家になってるんじゃねえかな。
そこで、勤め先から連絡がいって行方不明って事になるんだろうが、聞かれても俺は知らねえって言えばいい。
いい歳した大人なんだから、連絡がなくて心配したが、警察に届けるほどじゃねえと思ったってな。
交友関係調べりゃあ、二人が付き合ってたのは分かるだろ。
二人でどっか行ったんじゃねえかって考えて、警察も本腰入れて探そうとしなかったみてえだ。
死体もすぐには見つからねえだろうし、殺人とは気付かねえよな。
俺もそこでやめときゃ良かったんだよ。
だが、殺す時の相手の悲鳴とか恐怖の顔が忘れられなかったんだ。
また誰かをなぶり殺しにしようと思った訳さ。
俺は行方不明になっても、さほど騒がれなさそうな相手を選んだ。
一人暮らしの元犯罪者だ。
そして、二ヶ月の間に、二人を殺してから犯した。
例えようもなく興奮したね。
声をかけて家に連れ込んで、風呂場で犯したあとは解体ショーさ。
二人目までは真面目に隠した。
だが、最後の一人の時は、どうせ見つからねえだろうと思って油断したんだろうな。
バラバラに埋めはしたが、頭も一緒の場所に埋めたんだ。
おまけに、ちょっと掘った穴が浅すぎたみてえで、大雨の時に土砂と一緒に腕の部分が流れ出て見つかっちまった。
そうなりゃ、そこに他の部分もあるだろうってなって探すよな。
そのついでに、別の人間の一部が見つかった。
まあ、必死になって掘りまくったみてえだからな。
死体の全部は見つからなかったみてえだが、身元不明の男女を殺害した連続殺人事件って事で捜査が始まった。
その後、俺は半年程してから逮捕されたよ。
騒動にもなってるし、ちょっと大人しくしていたが、また犯行におよぼうと思ってた時に警察に捕まっちまったんだ。
知らぬ存ぜぬで通しても良かったんだろうが、何回目かの取り調べで自白したよ。
どう転んでも死刑だよな。
俺は拘置所に収容された。
そこで、はじめて先代の社長に会ったんだ。
先代社長は、俺にある人物から情報を吐かせて欲しいと言って来た。
その後、代理業社に勤めるなら、助けてやってもいいってな。
俺のどこが気に入ったのか知らねえが、なんの気兼ねもなくいたぶり殺せるって話を聞いて、二つ返事で承諾したさ。
俺は死刑執行された事になって、死んだ人間として外に出る事になった。
そして、俺はそいつを吐かせて、無事入社する事になったのさ。
まあ、更生プログラムを受けさせられたが、それがどのくらい効果があったのかは、さっぱり分からねえ。
俺は第二の人生を生きる事になり、顔も名前も全部変えた。
その時にこういう口調に変えてみたんだ。
この容姿や、仕事にあってると思ってな。
まあ、今じゃあすっかり定着しちまったがな。
「どうだ? 軽蔑したか?」
まあ、軽蔑されるだろうが、クリスがそれで態度を変えるとは俺には思えなかった。
「そうだね。軽蔑に値するね。でも……」
クリスは考えるみてえに一拍置いた。
「その女の人が先生の人生を狂わせる一因を作ったと考えるなら、この一連の事件はその女の人の所為とも言えるね」
クリスはそこでため息をつく。
「でも、実際に殺したのは先生だし、その行為は世間一般的には許される事ではないよね」
またクリスが、よく分からねえ理論を展開しはじめたな。
「これを聞いて、お前はどう思ったんだよ?」
俺が尋ねると、クリスはため息をついた。
「言ったよね? 軽蔑に値するって。ただ言える事は……」
ん?
まだ続くのか?
「僕はそう言う事をちゃんと考えられる心がない」
クリスは少し悲しそうな顔をした。
「心はあるだろう?」
クリスは悲しそうな目をして俺を見た。
「だって、別にその人たちの死を悼む気持ちも、凶悪な犯行におよんだ先生に対する怒りも、僕にはなにもないもの」
俺はクリスを抱きしめた。
なんだか、俺の話を聞いて貰った事で、クリスを苦しめる事になったみてえだ。
「クリスすまん。ありがとな」
クリスが俺にしがみついて来た。
「先生には僕を殺す理由があるから、殺したくなったら、いつ殺してもいいよ」
「え? 理由?」
俺は驚いて聞き返した。
「だって、僕は先生に貰ったものをなにも返す事が出来ないから。代わりに渡せるものなんて僕の命くらいしかないし……」
仕返しばっかしてるくせに、なに訳の分からねえこと言ってんだ?
俺を振った事に対する罪滅ぼしのつもりなんだろうか。
「俺はなにもやってねえだろ。むしろお前の体をいいように出来て、こっちが色々貰ってるんじゃねえか?」
「……分からないならそれでいい」
クリスは俺の胸に顔を埋めたままそう言った。
そこで、終業のベルが鳴った。
「今日は泊まってくか?」
俺が聞くと、クリスはこくりと頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます