続・人格破綻者編(二十三)

 俺は授業のはじめに、昨日の続きの話を持ち出した。

「で? 俺がサディストとして、お前はなんて言うくくりになるんだ? サイコパスなのか? それとも俺と同じサディストか?」

 俺は、クリスがそのどっちになるのか、よく分からねえから聞いてみた。

 まあ、クリスはどっちでもねえと否定して来るだろうと思って聞いたんだが、なんか考え込んでるみてえだ。

「よく分からないけど、そう言う括りでいくなら、僕はマキャベリストじゃないかな?」

 クリスは悩んだ挙句にそう言った。

 遠い昔、学生時代に聞いたような言葉だ。

「社会の授業で習ったような単語だな。どういう意味だ?」

権謀術数けんぼうじゅっすう主義者。人心操作が得意で、目的の為には手段を選ばない人の事」

 これはクリスの為にある言葉かってくれえしっくり来るな。

「まんまクリスだな」

 それに、クリスがため息をつく。

「先生の同類にだけはなりたくなかったのに」

 心底、嫌そうな顔をしてやがる。

「同類?」

 俺の括りとは違うと思うが、どうやったら同類になるのかよく分からねえ。

 俺が悩んでると、クリスがぽつりと言った。

「邪悪な人格特性としてダークテトラッドって言うのがあってね。ふたつともそれに分類されるんだよ」

 そして、心底嫌そうにため息をついた。

「なるほど。お互い人格破綻者って事だな」

 俺はニヤリと笑った。

「でも、僕は変態ではないけどね」

 クリスが負け惜しみのように言って来やがる。

 しかし、別に俺はそんな事は気にしねえ。

「変態は俺にとっては褒め言葉だから関係ねえよ」

 クリスがスネを蹴飛ばそうとしやがったから、足を払っといた。

 だが、俺はちょっと機嫌がいいから、転ばないように腕は持っといてやった。

 これで、クリスも俺に、性格が悪いとかなんとか言って来れなくなるだろ。

 部屋に帰ったら、じっくりマキャベリストについて勉強しねえといけねえな。


「だけど、お前はサディストでもあるよな?」

「どうして?」

 俺が聞くとクリスは不思議そうな顔をして来た。

 だが、隠そうとしたところで俺は知っている。

「人をいたぶってる時、恍惚とした表情してるぞ」

 それに、クリスは心外だと言わんばかりに顔を歪める。

「僕は先生とは違うよ。ただ、仕返しするのが好きなだけだよ」

 違いが分からねえが、どっちにしろやばい性格である事に変わりねえんじゃねえか?

「僕は、自分に関わりのない相手が苦しむのを見ても、なんとも思わないもの」

「俺は相手は関係なくいたぶるのが好きだが、そう言う違いか?」

「そうそう。僕はそれを見て勃起したりしないしね」

 いつもの事だが、それはガキの言うセリフじゃねえ!

「いや、待て! その言い方はストレート過ぎるだろ!」

 それに、クリスがぽかんとした表情をする。

 見てくれだけはいいが、こいつは本当に色々問題ありだよな。

「先生は言うくせに、僕は言っちゃいけないってどういう事?」

 不服そうだが、そんな苦情は受付ねえ。

「イメージの問題とかあるだろうが」

「僕が大人しくして、僕になにかいい事でもあるの?」

 まあ、ねえな。

 俺にしか得はねえからな。

 なんか言おうと思ったが、反論されそうなんでやめとく事にした。

 こう見えて、俺も学習してんだよ。


「話戻すけどね」

 なんか分からねえが、クリスが話題を変えて来た。

 それで、どこまで戻すんだ?

「仕返しをすると言っても、僕は腕力がないから、直接暴力に訴える事が出来ないんだよ」

 ああ、そこまで戻すのか。

「だから、その代わりに、相手を精神的に追い詰めたり、社会的に抹殺するしかないんだ。で、その時に人心操作する訳だよ」

 さらっと、こいつすげえ事言わなかったか?

「お前、性格悪いな」

 俺は自分で性格が悪い自覚はあるが、たぶんクリスの方が性格悪いぞ。

「そう? でも、先生も仕返しするよね?」

「そりゃ泣き寝入りは嫌だから、フルボッコだな」

「でしょ? 僕は先生と違って腕力がない分、他の力を使うしかないってだけだよ。ただ……」

「なんだ?」

 続きあんのか?

「今は多少なりとも人脈や権力といった力を手に入れたけど、昔はなにも持ってなかったんだよね。だから、せいぜい自分の体を使うくらいしかなくて……」

 それで、すぐ体を使おうとするのか?

 まあ、持ってるもんがそれしかねえなら、そうするしかねえのかもな。

 だが、それ以外のもんを手に入れたんなら、今は別に体なんて使わなくても良さそうなもんだけどな。

「まあ、あれだ。自分の体は大切にしろ」

 俺の言葉に、クリスが素直に頷いた。

「うん。そうする」

 珍しい事もあるもんだ。

 こいつがしおらしいと、後からなにかありそうで怖い。

 そう思っていたら、クリスが黒い笑みを浮かべた。


「先生がなにかしたら、犯罪者だって証拠を集めて社会的に抹殺する」


 やっぱりか!

 しかも、こいつ俺の事、誘導しやがったな!

 だが、分かっていても俺にはどうする事も出来ねえ。


「俺が間違ってた。頼むから体使ってくれ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る