人格破綻者編(二十二)

 授業中に、なにかの弾みに俺の話になっちまった。

 だが、俺は自分の過去なんざ言うつもりはなかったから、適当にあしらって終わらせようとしたんだ。

 そうしたら、クリスがまた爆弾発言をしやがった。

「先生の過去は知ってるよ。名前も顔も違うけど、声は変わってなかったからすぐ分かったよ。A市連続猟奇殺人事件の犯人だよね。死刑になった筈だけど、なんで生きてるの?」

 クリスがなんでもねえ事のように言って来やがった。

 俺が殺人犯だと知っても、顔色ひとつ変えやがらねえ。

 本当に、どこまでもふざけたガキだ。

「超法規的措置って奴らしい。それより、なんで分かったんだ?」

「声で分かったって言ったでしょ? たまたま聞いたニュースの犯人の声と、先生の声が一緒だったんだ。僕は耳がいいんだよ。それより、なんでここで働いてるの?」

 目の前にサイコキラーがいるってえのに、相変わらず緊張感のねえ奴だ。

 気が抜けて、俺もいつもの調子に戻っちまう。

「先代の社長に誘われたんだよ。ここに来れば、思う存分いたぶれるってな。だから俺の才能を貸して欲しいって言われたんだ」

 なんで先代社長が俺なんかに目をつけたのかは知らねえが、捕まる心配もなくなぶり殺せるなら、こんな旨い話はねえ。


「お前、俺が怖くねえのか?」

 俺の質問に、クリスが不思議そうに首をかしげた。

 こんな状況でも可愛いな、おい。

「なんで?」

「なんでって、俺は殺人鬼だぞ?」

「先生が僕の知らない人をどこで何人殺そうと、僕には関係ないじゃない?」

 こいつの方がサイコパスの素質があるんじゃねえか?

 ある意味、こいつを閉じ込めておくのは正解かもしれねえな。

「俺がお前を嬲り殺しにするかもかも知れねえとは思わねえのかよ?」

「だって、先生は僕を殺せなかったじゃないか」

 クリスはあやしい笑みを浮かべた。

「でも、僕を絞め殺そうとしたした時、先生なら一発で落とす方法を知ってるのに、わざと苦しめて殺そうとしたよね? それが先生がサイコキラーと言われる所以ゆえんなのかな?」

 どこまでも食えねえ奴だよ。

 俺の心理を完璧に読んでやがる。

 なんだか尋問されてるみてえで居心地が悪いから、早くこの話題を切り上げてえ。


「それより授業するぞ」

 俺はクリスの手を引っ張って台のそばまで連れて行った。

「でも、先生はサイコパスではなく、サディストだよ」

 俺は思わず手を止めた。

 分析するの好きだな。

 こいつ犯罪心理捜査官に転職した方がいいんじゃねえか?

 いや、拷問官にも向いてるよな?

 オールマイティか?

「とにかく、この話題から離れろ」

 今更、捨てた過去の事をほじくり返されたら堪らねえ。

「でも、この話題から離れると、拷問をはじめるでしょ?」

「まあ、そうなるな」

「この状況ではじめると、僕は身の危険を感じる訳なんだけど」

 嫌そうな顔でのぞき込んで来るが、そんな事は俺の知ったこっちゃねえ。

 クリスがこんな話題を持ち出したんだから、自業自得ってもんだろ。

「うるせえ。服脱いで台の上で寝とけ」

 俺はそう言うとシャツを脱いだ。

「行くぞ」

 俺は台に上がって、クリスに覆いかぶさった。

 クリスにほじくり返されたが、嗜虐的しぎゃくてき感情よりも、なんだかスッキリしたような気分の方が強い。

 誰にも言えねえような事を誰かに聞いてもらうのも、案外悪くねえな。

 それを考えたら、秘密主義のクリスとか、いっぱい抱え込み過ぎてつらいんじゃねえか?

「今度はお前の過去を根掘り葉掘り聞いてやるよ」

「もう先生には話してるじゃないか」

「あんなうわつらだけのは、話してるって言わねえんだよ」


 俺はクリスを犯しながら、いつか事件の内容を聞いてもらうのも悪くねえと思った。

 こいつなら、警察と違って、俺の気持ちを理解してくれるだろ。

 それと交換に、クリスが俺に隠してる過去でも吐かせるとするか。

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