続・抵抗編(十九)

 前回、自滅したからな。

 当分、自分から話題を振るのはやめようと思っていたんだ。

 だが、ちょっと気になる事があったから、クリスに聞いてみる事にした。


 俺がクリスを待ち構えていると、いつもの調子で俺の真似をして入って来やがった。

「よう」

 クリスはそう言って右手を上げる。

「よう、クリス。待ってたぜ」

 俺もそれに答えて、クリスの手を叩いた。


「今日はお前に聞きてえ事があったんだ」

「なに?」

 クリスが面倒臭そうな顔でにらんで来る。

 どうせ睨むなら、もっとキツイ顔の方が俺の好みだが、まあそんな事はどうでもいい。

「殴る蹴るされる場合は、相手を怒らせるのもありかもしれねえが、犯される場合は結局、相手を喜ばせるんじゃねえか?」

 俺の質問に、クリスはしれっと答えた。

「相手を下手だって言ってあおり倒す」

 ただでは楽しませないという事か。

 確かに、クリスはそう言う奴だよ。

 本当に全くブレねえな。

「なにがあっても抵抗する気だな」

「ただ、何回もされる場合は、効果がなくなって来るのが問題点かな」

 ああ、なるほど。

「ネタも尽きるだろうしな」

「それでも、精神的に負けなければ勝ちだと、僕の中で基準を設けてるけどね」

 どこまでも負けず嫌いだな。

 まあ、それがクリスがクリスたる所以だな。

「じゃあ、負ける事はまずねえな」

「どうだろう?」

 だが、クリスはなんだか歯切れが悪かった。

 クリスは俯いたまま、真剣に考えてる。

 信じられねえが、負けた事があるみてえだ。


「それより……」

 俺がなにか言おうとしたら、クリスが話を変えて来やがった。

「僕には、相手を挑発する自信のない拷問が二種類あるんだけど、聞きたい?」

「お前にそんなもんあんのか?」

「大人の女性に拷問される事と、僕より年下の子が目の前で拷問される事」

 大人の女は分かる。

 こいつは極度の女性恐怖症だからな。

 だが、子供はよく分からねえ。

 こいつはモラルとか善悪とか、そう言うのが欠落してる。

 だから、そんなもん気にするとは思えねえんだが。

「なんで子供なんだ?」

 俺が質問したら、クリスはなにか考えてるのか、すぐに答えようとしなかった。

 自分が言い出したんだから、今更言えねえって事はねえと思うが。

「言えよ」

 俺が催促すると、クリスは嫌そうにしながら口を開いた。

「子供は、昔の自分に重ねてしまう気がする」

「お前が?」

 俺は正直意外だった。

 クリスは他人に興味がなさそうだから、そんな感情があるとは思ってもみなかった。

「まあ、それでも挑発するとは思うけどね。ただ……」

 なんだ?

 まだ、あんのか?

「大切な人を盾にとられたら、相手の言う事に従うと思う」

「大切な人?」

 俺はオウム返しに聞いちまった。

 こいつにそんなもんいるのか?

 まあ、いるとしたらあれか。

「お前の恩人の社長とかか?」

 酷え生活をしていたクリスに、居場所をくれたのが社長らしい。

「まあ、そんなところだね」

 俺の殺したい奴リストの一番上に、社長の名前を書いとく事にした。

 ただ、言葉を濁してるところをみると、他にも大切な人がいるのかもしれねえ。

 それに俺が入ってるか聞きたかったが、たとえ嘘だとしても大切じゃねえと言われたら立ち直れそうにねえから、聞かねえでおく事にした。


 それより、結局クリスは自分が負けた事があるか、はぐらかしたまんまだったな。

 珍しく自分から弱みを見せて来たが、恐らく誤魔化す為に、似たような話題を出して煙に巻こうとしただけだろう。

 だとしても、負けず嫌いのクリスが、自分から弱みを見せるとは意外だった。

「お前がこんな話をするなんざ、天変地異の前触れか?」

 俺が茶化すと、クリスがしがみついて来やがった。

「先生と話をして、色々と考えてしまったんだ」

 これは反則級に可愛い。

 こんなもん、抱きしめる一択だろう。

「なんだ? 落ち込んでんのか?」

 俺はクリスを抱きしめて、背中を優しくさすった。

 押し倒してえけど、ここは我慢だ。

 すると、今度はさらに可愛い事を言って来やがった。

「今日は先生の部屋に泊めて欲しい」

 クリスに甘えられるのは正直嬉しい。

 しかし、俺にこんな事を言って来るとは、こいつ相当まいってるな。

「泊めてやるが、その前に授業するぞ」

「今日は授業したくない」

 かなり落ち込んでるみてえだが、クリスの言ってる事がよく分からねえ。

「どうせ俺の部屋で犯されるのに、授業でやるのとなにか違いでもあんのか?」

 俺にはどっちも同じに思えるんだが。

 しかし、クリスは違ったらしい。

「授業じゃなくて、先生にプライベートで抱かれたい」

 クリスに振られてなきゃ、愛の告白だと誤解しそうだ。

 告白じゃねえと知っていても、こんな事を言われたら、もう授業してる場合じゃねえだろ。

「お前の付き添いに外泊するって伝えとけ」

「ありがとう」


 俺に言えねえなにかを隠してるみてえだが、詳しくは聞かねえ事にした。

 どうせ問い詰めても、なにも言わねえだろうしな。

 それにしても、しおらしいクリスは薄気味悪い。

 まあ、抱いてりゃ元気になるだろ。


 俺は授業をやめて、そのままクリスをお持ち帰りした。

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