妄想デート編(十七)

「先生ってデートした事ある?」

 クリスがまた訳の分からねえ事を言いながら授業に来やがった。

 こいつは恐ろしい程世間知らずなところがあるからな。

 こういう話をする時は注意が必要だ。

 どっちと答えても、きっと爆弾発言されるんだろうから、本当の事を答えとく事にした。

「ああ、あるぜ」

「意外だ」

 いつも思うが、こいつの聞いておいてから『意外』って言うのなんとかなんねえのか?

「俺がデートした事ねえって思ってんなら最初から聞くな」

「やっぱり嘘か」

 どういう解釈でそうなった?

「デートした事くれえあるって言ってんだろ」

「あったとしても、先生のデートコースってホテル直行だよね?」


 クリスの質問に付き合っていたら授業が始められねえ。

 犯すのもいいが、今日は萎えるような発言をされかねねえので、拷問用の機械を使う事にした。

 これは頭に直接信号を送って痛みを味合わせる機械で、出力レベルと痛みの種類が選べるようになっている。


「痛みの種類はどうする?」

「失恋の痛みくらい」

「レベルは?」

「立ち直れないくらい」


 この前、失恋したばかりの俺の心をクリスがえぐって来やがる。

「それはなんの嫌がらせだ?」

「先生が質問に答えてくれないから」

 俺が答えてるのに、自分で混ぜっかえしてるだけじゃねえか。

 俺は情け容赦なく、切り刻まれる痛みの出力最大に設定して電源を入れた。

 これで黙ってくれたらいいんだが、最近は痛みに慣れて来たのか、喋って来るようになったから始末に負えねえ。


「これでも喋れるなら答えてやってもいいぜ」

 クリスがすげえ目で睨みつけて来やがった。

 こいつでも流石に出力最大は無理だったか?

「ホテル直行?」

 なんとか喋ったな。

「映画行ってハンバーガー屋だ」

「ホテルは?」

 こいつ執拗いな。

「ホテル直行はデートじゃねえし、俺にもピュアな学生時代があったんだよ」

 自分で言ってて恥ずかしくなるからやめてくれ。

「小学生?」

「初デートは中学の時だ」

「ホテルは?」

 まだ言うか、こいつ。

「中学生はラブホ入れねえんだよ」

「じゃあ家で……」

 どんだけさせたいんだよ!


「じゃあお前の希望のデートコースはなんなんだよ」

 俺の言葉にクリスが驚いた顔をする。

 なんだ?

 なんか変な事言ったか?

「先生捕まるよ……」

「俺と行くんじゃねえよ!」

 クリスは苦しそうにしながら考え込んでいる。

 流石に出力最大はやり過ぎか?

 俺はお情けで一段階だけ弱くしてやった。

「パフェが食べたい」

 まとも過ぎて涙が出そうになった。

 こいつは、この会社から外に出られねえもんな。

 こっそり連れ出せねえ事もねえが、バレたらあとが面倒だ。

 正式な手続き踏んで外に出るとなると社長の許可がいるだろうが、どう考えても無理筋だ。

 だが、クリスとデートに行けたら楽しいだろうな。

「クリスを連れて歩いてたら自慢出来そうだ」

 クリスは少し嫌そうな顔をする。

「僕はファッションじゃないよ」

 ん?

 こいつ自分がべっぴんだって、やっと自覚したか?

「それに、一緒に歩いていたら、確実に職質されるよ?」

 夢のねえ事を言うんじゃねえよ。

 ただの妄想なんだからよ。

「親子って答えときゃいいんだよ」

「無理。似てないから疑われる」

「じゃあ親戚のおじさんでどうだ?」

「それはあやしまれる」

「じゃあなんて答えたらいいんだ?」

 クリスは少し考え込む。

 少しは真面目に考えてくれてるのか?

 まあ、どうせデートには行けねえだろうがな。

「一人でいたら、美味しいものを食べさせてあげるからおいでって言われました」

「俺を犯罪者にする気満々じゃねえか!」

 しおらしくしていると思った俺が馬鹿だった。


 それでも、やっぱり外に連れて出てやりてえよな。

 大きくなったら警察にも捕まらねえだろうし、会社の許可もおりるかもしれねえ。

「お前がもっと大きくなったら、一緒に遊びに行くか?」

 デートじゃなくても一緒にいるだけでも楽しそうだ。

「どこに行くの?」

「遊園地とかどうだ? クレープとか売ってるぞ」

「先生がクレープ食べるの似合わなさそう」

 しばらく考えてると思ったら、そんな事を想像してやがったらしい。

「うるせえ! 俺は甘いものは好きじゃねえし、食わねえよ!」

 こいつ、確実に俺で遊んでやがる。


 クリスとワイワイ騒いでいたら、終業のベルが鳴った。

 電源を落として、頭から機械を外す。

 こいつが成人したところなんて想像も出来ねえ。

 このまま大きくなるんだろうか?

 まあ、べっぴんじゃなくなったとしても、俺の好みなのは変わらねえと思うがな。

 俺は感慨にふけってしんみりとした。

 俺にガキはいねえが、親の気持ちってえのはこんなもんかも知れねえな。


「本当にいつか、お前が大人になったら遊びに行こうぜ」

 クリスはニヤニヤと笑って俺に告げた。

「ホテルに?」


「そんなに行きてえなら連れて行ってやるよ!」

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