誘惑編(十五)
授業が終わって片付けをすませた俺は、久ぶりに外出しようと思ってエレベーターのボタンを押した。
エレベーターはちょうど俺のいる地下四階にいたからすぐにドアが開いた。
そこで、俺の思考回路が停止した。
エレベーターん中で、付き添いの男が俺の可愛い生徒と行為をしている最中だった。
なにが起きたのか俺には理解出来なかった。
二人が同時に俺に気付いてこっちを向いた。
男は見られて顔面蒼白になって、慌ててクリスから離れた。
しかし、クリスは別になにも気にした風もない。
「なにやってんだ?」
俺は男に殴りかかった。
男は無様に倒れて怯えている。
「いや、私は、誘われただけで」
「なに言ってんだ? そんな筈ねえだろ!」
もう一発殴ろうとしたところで、クリスが俺の腕を掴んだ。
「先生、待って。本当に僕が誘った」
「さっきまで授業で散々俺とやっといて、どう言うつもりだ?」
俺はクリスの隣の壁を殴った。
「先生。落ち着いて」
俺はクリスの胸ぐらを掴んだが、クリスが俺の手に自分の手を添える。
「とりあえずエレベーターから出よう」
俺はクリスから手を放すと、言われた通りにエレベーターから出た。
付き添いの男は失禁して座り込んでいて、立ち上がれそうにもねえ。
仕方ねえからエレベーターから引き摺り出したが、今すぐにでもなぶり殺しにしてえくれえだ。
「これが落ちついていられる状況か?」
こいつがすぐに誰とでも寝るのは知っている。
しかし、知っているのと実際に見せられるのとは別物だ。
「先生に怒られるような事はなにもしてないと思うけど」
クリスが俺の目を真っ直ぐに見て答える。
確かに、こいつが誰と寝ようが俺に怒る筋合いはねえ。
だが、こんな簡単に誰かを誘ってやるとか、そんな事やっていい訳がねえだろ。
「悪い事をしたって言う自覚もねえのか?」
俺はクリスの腕をとって引き寄せた。
「先生、痛い」
「痛いじゃねえよ。質問に答えろ」
「なにが悪いのか分からない」
クリスは俺を煽るような態度をとる。
俺は張り倒したいのを堪えるのに必死だった。
「僕が誰に抱かれようと先生には関係ないじゃないか」
俺は思わず平手でクリス頬をぶん殴っちまった。
クリスが勢いで背中を壁に打ち付ける。
俺はクリスの胸ぐらを掴んで、さらに何度か壁に打ち付けた。
「本気で言ってんのか?」
俺が手を止めると、クリスは俺を真っ直ぐに見返して来た。
「先生の事を嫌いにさせないで」
その言葉で俺は正気に戻った。
なんだかんだ言って俺はこいつに弱い。
俺はクリスを掴んでる手を離した。
「殴ったのは悪かった。すまん」
俺はクリスの顎をとって、こっちに顔を向けさせた。
「赤くなってるな。冷やしとくか。俺の部屋に来い」
クリスは俺を睨みつけている。
いくらクリスでも、殴った奴の部屋に来いって言われたら、まあ嫌がるだろう。
「もう、暴力は振るわねえよ。だから、俺の部屋に泊まってけ」
このまま帰したらまたなにかしでかしそうで心配だったし、なによりこのままの状態でクリスと別れたくなかった。
「先生の部屋に行ってもいいけど、泊まるのは無理だよ」
クリスは殴られても全く怯えてねえ。
付き添いの男とは大違いだ。
「おい。喋れるか?」
俺は足元で震えている男を軽く蹴飛ばした。
俺はクリスが止めに入ろうとするのを制した。
「クリスを一晩泊めたいんだが、なんとか許可貰うとか、誤魔化したりするとかは出来るか?」
俺が聞くと、そいつはブルブル震えたままで、慌てて何度も頷いた。
「また明日の朝にでもクリスを迎えに来い」
俺は男を置き去りにして、クリスを連れて部屋に帰った。
俺は部屋につくと、保冷剤をタオルで包んでクリスに渡した。
「ありがとう」
クリスは礼を言って、保冷剤をほっぺたに当てた。
こんな状況でもちゃんと礼を言うのは、律儀と言うかなんと言うか。
俺はクリスの体を濡らしたタオルで拭いてやる。
「本当に襲われたんじゃねえんだな?」
「うん」
こいつの感覚は一般人と、ちょっとどころじゃなくズレてるから心配になる。
「じゃあ、なんであんなところでやってたんだよ」
クリスは少し考えてたみてえだが、しばらくしてから口を開いた。
「空き部屋に行くまで待てなかったみたい」
ちょっと待て!
空き部屋ってなんだ?
「まさか、いつもそこに男を連れ込んでやってるのか?」
クリスは頷いた。
「なんでそんな事するんだよ!」
俺は自分の気持ちを抑えるのに必死だ。
それを知ってか知らずか、クリスがなんでもないという風に言って来た。
「世話係の人を抱き込んだら使えると思って」
待て!
やっぱり、こいつが誘うのは自分の手駒を増やすためか?
九歳のガキがなにやってんだよ!
急な展開に俺の頭が追いつかねえ。
「俺も手駒のひとつか?」
俺は恐る恐る聞いてみた。
「違うよ。先生は先生だよ」
よく分からねえが、利用されている訳じゃねえらしい。
俺は一安心した。
「それに、僕は先生を誘った事は一度もないし」
まあ、授業ってのもあるし、俺はクリスが誘わなくても襲ってるからな。
「誘ってみようか?」
「ん?」
なんか空耳でも聞こえたか?
「先生の事を誘ってみようかと言った」
俺は誘わなくても、もう落ちている訳だが、どうする気だ?
「まあ、先生を誘うのは楽勝だと思うけど」
そりゃそうだろ。
だが、誘って貰えると言うなら、是非ともお願いしてみてえもんだ。
「じゃあ、誘ってみろよ。抵抗してみせるからよ」
「分かった」
「ねえ、先生。しようよ」
クリスは俺を手を取ってベッドに誘う。
それにしても、えらく直接的だな。
俺相手だからって手え抜いてねえか?
「しねえよ」
俺は冷たく、クリスの手を振りほどいた。
「先生、抱いてよ。さっきだって、あの人の事を誘ったのは、利用出来るからって言うのもあったけど、本当は寂しかったんだ」
クリスが寂しそうに俯いた。
どこまで本気だ?
もしかしたら、誘うとかこつけて甘えたかったのかも知れねえが、よく分からねえ。
こいつは時々本性が見えねえ時があるからな。
「お前は俺じゃなくても誰でもいいんだろ? なら他をあたれよ」
他をあたられたら困るけどな!
クリスは俺のいつもと違う態度に文句を言いたそうな顔をして来た。
だが、すぐに切りかえて、寂しそうな顔をすると、もう一度俺の手をとった。
「違うよ。他の人が先生の代用なんだ。僕は先生じゃなきゃ駄目なんだよ」
縋るような顔をしているが、多分演技なんだろう。
演技と思っていても、そろそろ俺の理性がやべえ。
「嫌だっつってんだろ」
俺はもう一度手を振りほどいた。
「先生は僕の事そんなに嫌いなの?」
なに言ってんだ。
俺はこいつに告白した事がある。
俺が嫌いじゃねえのはクリスは百も承知だ。
なんかやり方変えて来やがったな。
「嫌いな訳ねえだろ」
俺には嘘でも嫌いとは言えねえ。
「じゃあ、お願い聞いてよ」
「無理だ」
クリスに擦り寄られても、俺は欲望に打ち勝っている。
「簡単なお願いなんだけどな」
クリスはそう言って俺のズボンのファスナーを下ろした!
直接触るのは反則だろ?
だが、俺はクリスの手を止める事が出来ねえ。
「先生のこれを」
クリスが俺の股間を触る。
そして、俺の手を取って自分の後ろに持っていく。
「僕のここに入れて欲しい」
クリスは俺の顔を寂しそうに見つめた。
「いいでしょ?」
それから、誘うように笑った。
「降参だよ」
俺はクリスをその場に押し倒した。
すると、クリスは俺の股間を攻撃しようとして来やがった。
まさかお預けか?
「先生ベッドでやって」
ああ。
付き添いの男が部屋まで待てなかった理由が分かった気がする。
「先生卑怯だよ!」
クリスが抱かれながら抗議してくる。
「抵抗するって言っただろ?」
「嘘つくなんて卑怯だ!」
「演技してたお前に言われたくねえよ」
こいつとの情事がもっと艶っぽくなる事ってねえんだろうか?
「先生がああいう態度取るって知っていたら、あんなに時間かからなかったのに!」
うるせえから黙らす為に激しく動いとく。
「俺だって抵抗していて、お前の誘いが堪能出来なかったんだからチャラだ」
「だったら抵抗しなかったら良かったんだ!」
攻めまくっても、なんの問題もなく喋ってくるな、こいつ。
「すぐに落ちたら俺の沽券に関わるんだよ!」
「なら最初からファスナー下ろして舐めたのに!」
ガキの台詞じゃねえ!
「お前ちょっと黙れ!」
口を塞いだら、なんかもごもご言ってるが、とりあえず静かになった。
つうか、クリスとじゃれてたら、あの男への怒りもどっかに行っちまった。
もしかして、これはクリスの策略か?
翌朝、クリスの顔の腫れはすっかりひいていた。
顔に傷が残らなくて本当に良かった。
俺もこの性格をなんとかしねえと、いつかクリスに本気で嫌われそうだ。
「昨日はすまなかったな。だが、お前も気をつけるんだぞ?」
俺はそう言って、準備していたお出かけセットを渡してやった。
内容物はゴムとローションだ。
「一応渡しとくが、絶対に使うなよ。だが、もし使ったら俺に言え」
俺が念を押して渡すと、クリスはケースを開けて困ったように首を傾げた。
「先生の意図が全く読めない」
「ああ、そうだろうな。自分でもよく分からねえよ!」
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