体位編(十)

「先生って、初めての時はどんな体位でしたの?」

 俺は思わず手が滑って、クリスにつけていた機械の出力を最強まで上げちまった。

「悪い。手が滑った」

 クリスが睨んでくるが、俺は悪くねえ。

 悪くはねえが、とりあえず謝罪の代わりに、機械の出力をはじめの時より少し下げといた。

「さすがに初めての時は正常位だったな」

「意外だ」

 普通の体位で意外だと言われる意味が分からねえ。

「じゃあお前はなんだったんだよ」

「先生知ってるじゃない。バックだよ」

 そうだった。

 こいつは自分の初体験の時のプレイを俺相手に披露したんだった。

「お前も普通じゃねえか。じゃあ好きな体位を言ってみろ」

 仕返しのつもりで質問してやった。

「マグロ」

「それは体位じゃねえ!」

「だって、たまにそう言う気分にならない? 特に強姦される時とか」

 クリスの言葉に、俺はどう返していいか分からなくなった。

 俺は強姦された事がねえから分からねえが、襲う時に要求してる気はする。

「先生は?」

「俺が一番好きな体位か。まあ、相手によって違うな。お前相手だとまだ模索中だ」

「もう色んなプレイをやり尽くしたと思うけど、まだやり足りない事があるの?」

「お前は体が死ぬ程柔らけえからな。未知の領域に挑戦出来そうだ」

「その挑戦、やめてもらっていいかな?」

 クリスが心底嫌そうな顔をしている。

 こんな顔をされたら無茶苦茶に虐め倒したくなるが、俺は今までの教訓を生かして、羽目を外さねえように自分に言い聞かせる。

 しかし、体位を模索するのをやめる気はねえ。

 そもそも、クリスが言い出したのがはじまりだ。

 自業自得って奴だ。

 俺はにやりと笑ってクリスを見た。

「じゃあ、今日は相手の要求する様々なプレイに対応する為の授業だ」

「そんな変な経験が生かされる事なんて絶対にないから!」

 俺はクリスの抗議は聞かない事にしている。

 そうしなきゃ楽しい授業が出来ねえからな。

 まあ、公私混同だと言う意見は受け付けてもいいが、考慮する気は微塵もねえ。


 俺は未知への挑戦の為に、邪魔になる機械を外す事にした。

 クリスは痛みから解放された訳だが、微妙な顔でこっちを見てやがる。

 まあ、一年近い付き合いだ。

 俺の行動パターンは嫌でも刷り込まれているだろう。

「まず、お前の体の柔軟性を見せて貰ってだな」

 俺は問答無用でクリスを座らせると、背中の上に乗っかった。

 まあ、この位は問題なく床にぺったりつくよな。

「じゃあ開脚して……」

 俺はクリスの足をV字に開くように持ち上げると、体をその間に入れ込んでみた。

「おお、曲がるなあ」

 俺は団子でも作るみてえにクリスを丸めてみた。

 そこで俺は発見した。

「お前、自分のケツ舐めれるだろう」

「それ体位じゃない!」

 クリスから盛大な抗議の声が上がった。

 それを言うなら、マグロも体位じゃねえ。


 とりあえず、俺も鬼じゃあねえから、丸めた体勢からは解放してやった。

 解放された途端、クリスが俺の顎に頭突きをかまそうとした。

 危ねえ。

 攻撃に足だけじゃなく頭まで使うようになって来やがった。

 しかし、その攻撃の後は、借りてきた猫みてえに大人しくなっちまった。

「どうした?」

 俺が心配して顔を覗き込んだら、つらそうな顔をして他所よそを向きやがった。

「クリス?」

 クリスは俺がいいと言った訳でも、授業が終わった訳でもねえのに、黙って服を着はじめた。

「どうした?」

 俺が背中からクリスを抱きしめと、肘鉄ひじてつが飛んで来た。

 まあ、くらいはしねえんだが、一応腕もホールドしといた。

「先生が僕のトラウマをえぐった」

 クリスが苦しそうな声を出す。

 まさかとは思うが、こいつこんなアクロバティックな自慰行為をさせられてたのか?

「ああ。なんだ。すまん」

 流石に俺もそのプレイが見たいとは言えなくなっちまった。

 俺よりも先にそんな事をさせた奴に殺意が芽生える。

 しかし、珍しくクリスが本気で怒っていて、俺と目も合わせねえ。

「あれだ。まだ授業時間だから、な?」

 このまま帰らせたら、こいつは一晩中落ち込んでそうだし、下手したらその辺で男をくわえ込みかねねえので、ここで帰らせる訳にはいかねえ。

 こいつ妙に繊細なところがあるからなあ。

 まあ、俺の神経が図太いだけなのかも知れねえが。

「じゃあ、あれだ。今日はお前の好きな体位でまったりやるか」

 普段ならこういう冗談に乗って来るんだが、動きもしなくなった。

「クーリースー」

 とりあえず、クリスの脇に手を入れて体をぶん回してみた。

 まさかの、反応がねえ。

「悪かったって。な?」

 こいつの過去にやって来たプレイはかなり壮絶そうだ。

 それを全部やってったら新しい技が開拓出来そうだが、間違いなく怒るだろうから言わねえ事にする。


「じゃあ……」

 クリスが小さな声でなにか言ってるみてえだ。

「どうした?」

「これから先、先生相手には僕の好きな体位以外しない」

 クリスが言ってるのが、冗談なのか本気なのかよく分からねえ。

「今日明日くらいまでは、それで行くか」

「今日、まだ授業するの?」

「お前をこのまま帰らせたらなにしでかすか分からねえだろうが。本当なら俺の部屋に泊まらせたいところだぞ」

 俺はクリスが着かけた服を脱がせる。

「そこで寝といたら、俺がお詫びに奉仕してやるから」

 俺が誰かに奉仕するなんざ人生で一度あるかねえかだ。

 それだけ俺にとってクリスが特別だって事なんだが、まあこいつには届いちゃいねえだろう。

 自分の事となると、こいつは驚く程鈍感だからな。

「別に性欲はない」

「知っちゃあいるが、なにかの弾みに開発……」

 俺はそこで言うのをやめといた。

「とりあえず、そこに転がっとけ」

 俺はクリスを台の上に寝かせた。

 本当はベッドに寝かせてえ所だが、あいにくこの教室にはベッドがねえ。

「今日は優しくしてやるから、痛かったりしたら言えよ」

 普通にやったら、クリスは腰を動かしてマグロにならねえだろう。

 俺はマグロをマグロのままで優しく犯すやり方が分からねえから、とりあえず今日はクリスのでもしゃぶっとくとするか。


 俺がそう思ってクリスの足の間に入って股間に顔を埋めた時、クリスが嬉々として叫びやがった。


「あ、先生! それ、まだやってない体位だ!」


 こいつ元気じゃねえか!

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