告白編(十一)

 授業中に俺に犯されながらクリスが聞いて来た。

「先生って女の人が好きなの?」

 こいつの質問はいつも突拍子もねえ。

 俺も慣れちまって大体の事には驚かねえようになった。

「ああ、そうだ。俺はゲイでもバイでもねえ。ストレートだ」

「意外。絶対先生はどっちもいけるんだと思ってた」

 なら最初から聞くなとも思うが、それもクリスらしいと思って俺は苦笑した。

「抱くだけなら、気持ちよければどっちでも構わねえがな」

 それを聞いてクリスが顔をしかめる。

「先生、最低」

「お前は性欲なさそうだもんな。分からねえか」

 俺には理解出来ねえがこいつは性欲が薄いくせに感度がいい。

 俺が攻めると、クリスの体が僅かに反応する。

「お前セックス嫌いだろ?」

「うん。好きじゃない」

 嫌いなのに体が反応するってのがどんな気分なのか、俺には想像もつかねえ。

「先生は大好きだよね?」

「ああ。それなしじゃ生きていけねえくらいにな」

 俺はそう言うと、満足してクリスから体を離した。

「じゃあセフレでもいるの?」

 少し息を上げながらクリスが聞いて来る。

 いつもそうだが、こいつのはガキのする質問じゃねえ。

「いや。特定の相手を作るのも面倒だから女を買ったりしてたな」

 そう言って、俺がもう一度犯そうとしたら、クリスの顔が急に険しくなった。

「僕は先生を軽蔑する」

 俺はクリスが店で散々客を取らされていたのを思い出した。

 そりゃあ、こいつに軽蔑されても仕方ねえかもしれねえ。

 俺は犯す気をなくして床に寝転んだ。

「言うなよ。でもお前が来てからはそういう事はしてねえんだから」

 その言葉に、クリスの周りの温度がさらに冷たくなる。

「それって先生も僕の事を性欲処理の対象としてしか見てなかったって事?」

 クリスは俺の上に乗ると、冷たい目で俺の顔を覗き込んで来た。

 黒髪が俺の肌にかかって堪らなくそそる。

「そりゃこんだけの美人だ。ガキを抱く趣味がなくたって興奮するさ。だがな、今はそれだけじゃねえよ」

 俺はクリスに手を伸ばす。

「じゃあなに?」

「クリス、俺はお前の事を愛してる」

 そして、俺はクリスの頬を優しくなでた。


 俺はなんでこんな話をしてるのか、自分でも理解出来なかった。

 こんな事を言うつもりじゃなかったんだ。

 最初は普通にクリスとじゃれていただけだった筈だ。

 どこで話の流れがおかしくなったんだ?

 こんな気持ちは墓場まで持って行こうと思っていたってえのに。


「僕は……」

 俺はクリスの唇をふさぐ。

「言うな。お前の気持ちなんざ知ってるから言うんじゃねえよ。俺がみじめになる」

 俺は体勢を入れ替えると、クリスの体をまさぐり体中に舌をわせた。

 感じるまいとしてるんだろうが、クリスの体が微かに動く。

 それが堪らなく愛しい。

「お前を俺だけの物にしたかった」

 俺は荒い息を吐きながら、クリスの耳元でささやく。

「誰かに渡すくらいなら、いっそこの手で殺しちまいてえ」

 クリスはそれを聞くと、感情の読み取れねえ目で俺を見つめて来た。

「僕は僕だ。誰の物でもないよ。それでも許せないと言うなら、先生、僕を殺してもいいよ」

 クリスはそっと目を閉じた。

 俺はクリスの首に手をかけ、殺す勢いで思い切り締め付けた。

 だが苦痛に歪む顔を見たら殺せなくなっちまった。

 俺は誰かの苦しむ顔が三度の飯より好きな筈なのに。

「俺にはお前は殺せねえ」

 俺はクリスから手を離した。

 クリスは目をうるませて激しく咳き込んだ。

 俺はその体を抱きしめて背中をさする。

「俺の物にならなくていい。お前が誰かの物にならねえならそれでいい」

 クリスが俺にしがみついて来た。

 堪らなく愛おしい。

 一時の感情に流されてこいつを殺さなくて良かったと、心からそう思った。

 そうして終業時間まで、ただずっとクリスを抱きしめていた。

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