恋愛ドラマ編(三)

「この前、恋愛ドラマを見たんだけど」

 授業中にいきなりクリスが言って来た。

 つうか、クリスが恋愛ドラマとか全く想像出来ねえ。

「プラトニックラブってなんだろう? 好きなら押し倒せばいいのに」

 俺は思わず硬直して、持っていたクリスの足を落とした。

「急に離すと痛い」

 抗議の声が上がったが、俺は別に悪くねえと思う。

「好きでもねえ相手に押し倒されても嬉しくねえだろ? だから、両想いになるその前段階で、仲良くなっていく過程とかあるだろ? それに、付き合うようになっても、はじめは相手を大切にしたいとか思うだろ? その間はやっぱりプラトニックなんじゃねえか?」

 なんだか分からねえが、俺の方が恥ずかしくてしどろもどろになっちまう。

「先生にもそんな時があったの?」

 クリスが不思議そうな顔で俺を見る。

「そりゃあるさ。特にこっちも初体験だとすると、余計にドキドキするだろ? どうやって手を出したらいいか分からねえというかなあ。お前だって、そういう時が来たら分かると思うぜ」

「先生、僕の初体験いくつの時か知ってるよね?」

 クリスに言われて気付いた。

 こいつの初体験三歳の時だ!

 しかも、こいつが八歳の時から、俺が授業で犯しまくってる!

 そんな初歩的な事を忘れるとは、俺の思考回路が完全にショートしちまってる。

「すまん。まあ色々だな」

 俺がなんでこんな話をしているのか、自分でも分からねえ。

 クリスのぶっ込んで来た話題の凶悪さを呪った。

「ちなみに先生の初体験って、男? 女?」

「女だな」

「じゃあ男とやったのはいつ?」

 俺はクリスの頭を叩いた。

「俺の精神が削られていくような質問はやめろ」

 それにクリスが驚いた顔になる。

「もしかして、初めての時、先生突っ込まれる方だったの?」

 どうして、そういう発想になった!

「この話題やめねえか?」

「そうだね。自分で色々と調べてみるよ」

 これでこの話題から解放されたと思った時、クリスの言った一言がこれだ。

「先生、恋愛経験乏しそうだし」

 クリスの恋愛経験の方が絶対少ないと断言出来る。

 というより、こいつに恋愛経験なんざ絶対にねえ!

「間違いなくお前よりは多いぜ」

 そこで終業のベルが鳴った。

 俺は心の底から安堵あんどした。

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