続・おんぶ編(二)

 次の日の授業に来たクリスは、これ以上ねえってくれえ不機嫌だった。

「警備員に襲われたのか?」

 俺は冗談で言ったんだが、クリスは黙ってにらみつけて来た。

「まさか本当に襲われたのか?」

 俺は自分のまいた種とはいえ、警備員に殺意を覚えた。

「僕には簡単に他人と寝るなとか言うくせに、こういうのはいいんだ?」

 クリスの周りの温度が下がる。

「本当にすまねえ」

 俺はなにも言えず、ただただ謝った。


「それで、なにされたんだ?」

「知りたいの?」

 クリスの目が殺気を帯びる。

「僕は先生に散々いかされまくって体が動かないよね? あっちは訓練された大人で拳銃まで持ってる。手ぶらの僕に勝ち目なんてない!」

 クリスは俺の手を掴むとベッドに連れて行った。

「先生は警備員ね」

 クリスはベッドに寝そべった。

「警備員は僕に覆いかぶさって、口付けしながら体をまさぐった」

「本当にすまなかった」

「聞いて来たの先生だよね?」

 クリスは一人で自分の服をめくりはじめた。

「僕は相手の胸を押して抵抗した。けれど、相手はビクともしない。警備員は僕の両手を掴んで押さえつけ、耳を噛んで荒い息を吐きかける」

 クリスは自分の両手を肩の位置に上げるとベッドに押しつけた。

「俺が悪かった。だからやめてくれ」

 俺は堪らず、クリスを止めようとした。

「悪いと思うならちゃんと責任取ってよね」

 しかし、クリスにやめる気配はねえ。

「どうすればいい?」

「警備員は僕の体をめまわして、そのうち僕の手を解放する。執拗しつように乳首を攻めてから脇の下を舐める」

 どうやら、俺に付き合えって事らしい。

 俺はクリスに指示されるままに体を動かした。

 しかし、内容がどんどんエスカレートして行く。

「本当にすまねえ」

 俺は堪らずクリスに謝った。

「まだ続くんだけど?」

 しかし、クリスの声はとてつもなく冷たかった。

「本当にどうかしてたんだ。こんな目にあわせるつもりなんてなかったんだ」

「じゃあそれを殺人犯が言ったとして、その罪は許されるの?」

「クリスすまなかった」

 俺はクリスの頭を抱きしめた。

「終わった事だからもういいよ」

 諦めにも似た声でクリスが言った。


「後ろ見せてみろよ。どんな風になってるんだ?」

 俺はクリスを後ろに向かせて入口を見た。

 赤く腫れて、所々切れたような痕がある。

「あんなに後ろほぐしてあったのにね。自分本位の下手くそなプレイを延々された。先生、どういう意味か分かるよね?」

「痛かっただろう」

 クリスは黙り込んだ。

「警備員の事は俺が責任をもって上に言っとく」

 俺は脱がせた衣服をクリスに着せた。

「本当にすまない。もう絶対にこんな事はしねえから」

 俺はクリスの体を抱きしめた。


 俺の体に顔を埋めたままでクリスが言って来た。

「先生、抱いてよ」

 俺はクリスがなぜこんな事を言い出したのか分からなかった。

「体ボロボロだぞ」

「あちこち痛いもの。そんな事知ってるよ」

 口調は怒っていたが、声が少し震えている気がした。

「怖かったのか?」

「怖い筈ないよ。僕が誰とでも寝るのは先生が一番よく知ってるじゃないか」

 口ではそう言っていたが、クリスは俺の背中に手を回して来た。

「僕の居場所が汚された」

 悲しそうな声だった。

「つらかったな。本当にすまない」

「すまないと思うなら抱いて。それに今授業中だし」

 クリスはつらい事があると性行為に逃げる事がよくあった。

 今回もそういう事なのかもしれねえ。

「すまなかった」

 俺は謝りながら、着させた衣服をもう一度脱がした。

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