第3話 カザンバイ
「多摩川はね、昔はこの場所を流れていたんだって」
ええっ、そうなの?
今の多摩川は、この東大和市から十キロほど南を流れているというのに。
「その時、洪水でばら撒かれたのがこの石。触るとボロボロと崩れるから
洪水だって?
災いって地震だけじゃなかったのかよ。
「それっていつの話だよ?」
「うーん、三十とか四十……」
「三十とか四十?」
「万年前かな」
「万年かよ!」
俺はほっと胸を撫で下ろす。今日は何度目のことだろう。
安堵の表情を浮かべる俺に、涼音はちょっとムッとした。
「この地を襲ったのは洪水だけじゃないよ。その後の四十万年間に何が起きたか知ってる?」
どうやら涼音は、何が何でも俺を恐怖のどん底に落としたいらしい。
それを成し遂げるためには彼氏の一人でも連れてくればいいわけだが、それに気づかれるのが怖くて俺は真面目に考える。
四十万年間に起きたこと? やっぱ地震だろ?
でも、まてよ。地震はこの神社のカナメイシが抑えているはずだから……。
「火山噴火よ」
だよな、地震じゃないんだから。
って、噴火!?
それってどういうこと?
「この近くに火山なんてあったっけ?」
「火山はないけど火山灰が厚く積もってるの。富士山とか箱根とかから飛んで来たやつ」
「じゃあ、大したことないじゃん」
「大したことあるよ。だって、このイシグサレから上の山は全部、その火山灰だもん」
「ええっ、そうなの?」
ここから上って狭山丘陵全部ってことだろ?
その厚さは四十メートルは優にあるんじゃないだろうか。
「だったら、昔の村とか全部埋まっちまうじゃん」
「そうだよ。だから大変だって言ってるの」
もし昔の多摩川の河原に村とかあったら、それは火山灰の下敷きになってしまったということだ。イタリアかどこかの街のように。
ん? 四十万年間で四十メートル?
それって……。
「その火山灰って、十万年で十メートルくらい積もるってことだろ?」
「そうよ。一万年で一メートル」
「百年で一センチ」
「十年で一ミリ」
「大したことないじゃん!」
すると涼音はキッと口元をきつく結んだ。
「まだまだよ。このイシグサレがこの高さにある意味を考えて!」
そこまで意地にならなくても……。
でもその後俺は、今度こそ恐怖のどん底に落とされるのであった。
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