第64話 約束



 ――カリストを座標に転移したカズナは、跳んだ瞬間同時に召喚した、今創れる最高硬度の装甲を持つ盾型の生物を前に突き出す。


「―――――――――ッッッッ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」


 黄金の光に高速で削られる盾を構えながら、それでも盾の召喚を繰り返す。


 後ろから何か叫ぶ声が聞こえるが、残念ながら返事ができる状況ではない。


 腕の皮が焼け剥がれ、次の盾を用意する。

 顔の皮が剥がれ落ち、次の盾を用意する。

 左腕が無くなり、次の盾を用意する。

 頭左側の機能が消失し、次の盾を用意する。

 次の盾を、

 次の盾を、

 次の盾を、

 次の――




「アアアアアアアアッッッ‼︎‼︎‼︎」




 特大の爆発を最後に、辺りに膨大な量の花弁が舞った。



「――ぁあぁ、あぁあ、何を、何をしておるんじゃ貴様はぁっ」


 目を開けたカリストが、自分を守る様に立つ、半身が吹き飛んだ背中に這って近づく。


「ゲホっ、カホっ、……まさか」


 血を吐きながら驚くドーラを他所に、ラヴィナが転移で現れる。


「カリストっ‼︎カズナがいないの‼︎カズ、ヒっ――」


 入れ違いになったラヴィナの目に映ったのは、泣き喚くカリストと、


 ……頭の先から腰まで左側が全て無くなり、尚も倒れないカズナの姿であった。


 肺が押しつぶされ目を見開き1歩も動けないラヴィナの耳を、不意にドーラの笑い声が打つ。


「あははははっ予想外っ、予想外よっ!ふっ、あははははははっ」


 酷く耳障りな音の発信源を探し、恐怖と怒りに燃える眼が横を向く。


「まさか主自ら飛んで来るなんて、愛されてるわね、ふふっ」


「――殺す」


「ん?何て言ったのかしら?」


「――ッ殺「うるせぇな……」……え?」


「……ガ、ガズナ?」


 ラヴィナとカリスト、ドーラまでもが驚愕に動きを止める。


「……何て、顔、してやがる」


 彼はカリストの頭をポンポン、と叩くと、盾の破片を握り締め、花を踏み潰し歩き始めた。


 肉は焼け焦げ、脳は損壊し、1歩毎にはらわたが溢れ落ちる。

 それでも彼は、歩みを止めない。


 ただ、目的を果たすためだけに。


「……」


「……初めまして。異形の王様」


 ドーラの身体は既に腰から下が崩れ、立つ事すら出来なくなっていた。

 彼女は自分を見下ろす虚な瞳を覗き込み、息を呑む。


(……綺麗な目)


 とても冷酷なのに、その奥に燃える様な意志が揺らめいている。


 この男は、モンスターよりもよっぽどモンスターだ。


「――ッグフっ……あ、ら、返事は、ないの?ゲフっ……それとももう、喋れないのかしら?」


 胸に突き立てられた鋭利な破片を見つめ、ドーラは血を吐きながら笑う。


(ふふっ、もういいわ。……私の願い、最高の形で叶っちゃったし)


 相手からすれば、仇は笑って死んでゆき、主は手遅れ。この結末が1番屈辱的だろう。


 ドーラは満足気に頬を緩め、目を瞑る。


 ……その時、耳の横で小さく、彼が呟いた。


「……ゆっくりお休み、……ドーラ」


「――ッ……はい、はいっ、……リョウ様っ」


 彼女は涙を流しながら、満面の笑みで返すのだった


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