第63話 戦いの裏



 ――数刻前。


 カズナはスクリーンを凝視しながら、必死に頭を回転させていた。

 2人の肌に傷が付く度に、その痛みが自分にまで及んでいるような気がしてしまう。


 どうすればこの状況を打破出来る?

 どうすれば2人を助け出せる?

 俺には、何が出来る?


「クソっ」


 空になった迷宮素のゲージを殴りつける。


 あの時ダンジョンを拡張していなければ、あの時モンスターの量を制限しておけば、そんなたらればが、頭の中をグルグルと回る。


 しかしカズナは自分の頭をガツガツと殴り、無駄な事を考えるな、と思考を本筋に戻す。


 考えるべきは、今起きている現状をどうするかだ。変えられない過去に悩む程、愚かなことはない。


 カズナは第5階層中にスクリーンを展開し、ダンジョンのあらゆる場所を細部まで映し尽くす。


 何か2人の助けなる物は無いか、何か勝利の為になる物は無いか、何か、何か、……


「…………ん?」


 カズナが1つのスクリーンで目を留める。


 そこに映るのは、先の大号令に間に合わず、ドーラの攻撃から運良く生き残ったモンスター達。


 彼らが第3階層の浜辺にて、海を渡れずに立ち往生している姿であった。


 その時、カズナの脳裏で、1つの仮説と予測、無謀極まりない作戦が組み立てられた。


 考えるよりも早く、カズナは浜辺に転移する。


 500を超えるモンスターの目が、突然現れた王に注がれた。


 カズナは目の前の触手犬を指差す。


「お前、悪いが死んでくれ」


 瞬間、触手犬が黒い粒子となって空に消えた。


 カズナは迷宮素のゲージを見て、仮説が正しかったことを確信する。


 迷宮素で創られたモンスターは、迷宮素を回収出来る存在に殺された場合、その主であるダンジョンマスターに還元される。


 では、自分が自分の創ったモンスターを殺した場合、その迷宮素はどこに行くのか?答えは、自分に戻ってくるだけである。


 カズナは1つ息を吐き、モンスター達を見た。

 その瞳から、人の色を消して。


 何かを悟ったモンスター達が、一斉に跪く。



「……済まないな、お前達。……俺のために、死んでくれ」



 穏やかな日差しが照り付ける、細波揺れる白い砂浜で、



 ……命を崩した黒い星々が、自分勝手な王を祝福した。



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