第60話 水も滴るいい女




 ――「ふぅぅ、……む?」


「はぁ、はぁ、――っ……何?」


「フゥ、フゥ、……カズナか?」


 避難していた肉ゴーレム達が、一斉にマグマから這い出し扉へ向けて駆け出し、扉に揺蕩う海に次々と飛び込んでゆく。


 その光景に、ダイアナ、ラヴィナ、カリストの動きが止まる。


「……一時休戦よ」


「……うむ。私も少し疲れた。構わん。……あと幻覚魔法は解いていいぞ。私の目は少々特殊でな、真実が見えてしまうんだ」


「……あっそ」


 ダイアナの鎧を締め付けていた鎖が消える。


 ラヴィナの提案を了承した彼女は、ボロボロになった精霊武装の補修に入る。


 カリストはその場に大の字にぶっ倒れ、ラヴィナもふにょん、と彼女の横に着地する。


 そんな2人の様相は、軽傷と呼ぶには些か酷い有様であった。


 ラヴィナの真っ白な肌は裂傷で傷付き、目の1/3が潰れてしまっていた。


 カリストは鎧が半壊しているだけで済んでいるが、紅蓮の様であった彼女の肉体は、所々が焦げついて黒く変色していた。


「……カズナ、何が起きたの?」


 自身とカリストに回復魔法を掛けるラヴィナが、この現状を見ているだろう彼に尋ねる。


『ヴィーネ……大丈夫か?』


『問題ないわ』


『……済まない』


 心配をかけないよう感情を押し殺すカズナに、彼女は目尻を緩める。


『妾への心配はないのか?愚か者』


『あるに決まってんだろ。今にも泣きそうだぞ俺は』


「ククっ」


 回復に専念するカリストが、口元だけで小さく笑う。


『それで、何が起きたの?』


 カズナは少し躊躇い、答えた。


『……戦闘中だった2人以外の、全てのモンスターに突撃司令を出した』


『あの魔法使いか?確かに強者ではあったが』


『……』


『……カズナ?』


 念話越しでも分かる様子のおかしい彼に、2人が不審がる。


『……ヴィーネ、カリスト、逃げよう』


『え?』


『頼む、考えてくれ。俺達全員でここを出れる、何か、策を、思いつかねぇんだ。俺じゃあ思いつかねぇんだ、クソっ』


『おいカズナ、落ち着け。どうした?』


 いつになく取り乱す彼に、只事ではないと2人も起き上がる。


「おい、そろそろ良いぞ!準備完了だ!」


「黙れ殺すぞ」「貴様は黙っておれ‼︎」


「……え、えぇ」


 立ち上がったダイアナが、2人の怒気に尻込みする。


『奴も消耗している。このまま削れば、ラヴィナの転移を経由して逃げる事も可能じゃ』


『ええ。魔法使いも障害にはならないわ』


 彼女達の言葉に嘘は無い。……それが彼女達の想定通りなら。


 カズナは奥歯を噛む。


『……今朝殺したダンジョンマスターの側近が攻めて来た。あのドライアドだ』


 2人が固まる。


『……どういう事?』


『……妾が殺したぞ、あれは』


『生きてんだから仕方ねぇだろ。それもなぜか、お前らから聞いたダンジョンマスターの能力受け継いでやがる。500はいた配下が一瞬だ。っ……クソっ』



 その時、ダイアナの後ろの扉が開き、濡れた髪を掻き上げ1人の女が姿を表した。



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