第58話 予期せぬ来訪者


「……あいつ、ヤバ過ぎだろ」


 第4階層での死闘をスクリーン越しで見るカズナは、無意識に止めていた息を大きく吸い込む。


 正に天変地異、人外の戦いだ。

 混ざることは愚か、目で追うことすら難しい。


 しかし先の女は、そんな中を心底楽しそうに駆け回っている。2対1のハンデなどものともせずに、だ。


 あれに勝つビジョンが、湧かない。


(……どうする、考えろ)


 今自分が考えるべきは、如何にしてあれから逃げ切るか、如何にしてあれを出し抜くか、だ。

 自分1人なら階層転移で外までは出れるが、全員でとなると自分の能力は使えない。


 ヴィーネの空間魔法も、階層間を飛ぶことは出来ない。加えてあの女は、ヴィーネの転移に追いつくだけの馬鹿げた脚力を持っている。


「(どうする)……ん?」


 カズナが思考の海に潜ろうとした、その時、第1階層の門が開き誰かが入ってきた。


 緑の髪、簡素な服、両脇に従える花の化物。


「っ……見間違いか?」


 否、あんな特徴的な女、見間違える筈がない。

 カズナの脳裏に過るのは、今朝殺したダンジョンマスターの隣にいた、緑の女だ。


「何で生きてやがる」


 突然の来訪者に冷や汗を垂らすカズナだが、鈍る思考を切り替え、スクリーンに全階層のモンスターを映し出す。


 最も危惧すべき事態、それはアレの目的が復讐である事だ。

 今ここであの女を第4階層に到達させてしまえば、保たれていた均衡が一瞬で崩れる。


『全配下に告ぐ。緑髪の女を食い殺せ』


 カズナは戦っている2人を外し、ダンジョン内全てのモンスターに命令を下した。

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