第55話 拳で語れ


 ――「良い蹴りだ!」


 マグマの女と相対するダイアナは、光剣を地面に突き刺しファイティングポーズをとる。

 それを見たカリストは爆笑。


「クハハハハッ、妾を前にその傲慢さ、気に入ったぞ人間ッ!」


「――ッ!」


 カリストは大地を蹴り砕き、一瞬で間合いを消す。ダイアナの眼前で左に飛び、地面に手をつき低姿勢から飛び蹴りを繰り出した。


 ダイアナが半歩身体をずらし、肘打ち。


 その肘を掴み軸にし回転、カリストの回し蹴り。


 ダイアナが空を焼く豪脚をしゃがんで躱し、顎目掛け蹴り上げる。


 迫る爪先をカリストはバク宙で躱し、再び突貫、急停止、左ボディを刺す。


 右手で払い、ダイアナは左腕に光を収束。胴体目掛け手刀を振り抜いた。


「――ッチ」


 カリストが地面すれすれまで身を屈め、手刀を躱す。手刀の軌跡延長線上にあった岩山が、漏れなく断裂した。


 バックステップで距離を取るカリストに、今度はダイアナが肉薄する。

 ダイアナの下段突き。


 蹴り飛ばし相殺。カリストは上段と中段の連突きをステップで躱し、顎下から迫る掌底をバク転で躱す。

 着地点で喉元を貫かんとする1本貫手を首をひねり見送るも、手刀に切り替えた指が首を狙う。


「クハハハハッ!」「ハハハハハッ!」


 手刀の進行方向と同方向に半回転したカリストが、勢いそのまま顔面目掛け回し蹴りを放つ。


 手刀を躱されたダイアナが、左拳で鳩尾に正拳を放つ。


「ごファっ⁉︎」「グハッ⁉︎」


 インパクトは同時。

 ダイアナは側頭部に豪脚を叩き込まれ、横に吹っ飛ぶ。

 カリストは腹部に剛拳を叩き込まれ、身体をくの字に曲げ吹っ飛んだ。


「……ペッ。……傷を貰ったのは何年振りか」


「……ゴホっ、クフフ、やはり強いわ。グフっ」


 瓦礫を押し除け起き上がる彼女は、血を吐き捨てるダイアナを睨む。

 そんなカリストの頭上から、ラヴィナが話しかける。


「気は済んだかしら?」


「ああ、待たせた。……狩るぞ」


「ええ」


 本気でやらなければ、勝つ事など到底不可能な相手。

 ウォームアップはこれにて終い。


 カリストの全開の魔力に、大地が沸騰しボコボコと泡立ち始める。

 ラヴィナの全開の魔力に、空気が凍り雪が降り始めた。


「……本当に、楽しいな」


 ダイアナは光剣を引き抜き、天地を操る異形をその目に刻み込む。


 あの者達の力は、まだまだこんなものではない筈だ。もっと、もっと、私を楽しませてくれる筈だ。


 期待の眼差しを向けるダイアナに、お返しとばかりにカリストが狂笑を浮かべる。



「『タルタロス』」



 途端カリストを漆黒の炎が包み込み、纏っていたドレスが鎧へと姿を変えてゆく。


 黒炎が晴れたその場所には、禍々しくも美しい全身武装を纏った、獄炎の戦乙女が立っていた。


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る