第53話 対話



 ――「……カズナ、貴様本当に運が悪いな」


 第4階層、火山の頂上付近にて、3体の異形がダイアナの戦闘を見ていた。


 幻覚魔法を解いたラヴィナとカリストは、ガックシと膝をつくカズナを憐れみの目で見つめる。


「俺の渾身の肉ゴーレム達がっ」


「そんな事よりどうするの?」


「そんな事って言うな!」


 立ち上がるカズナは、忌々しそうに光の柱を睨む。


「……2人共、あれに勝てるか?」


「愚問じゃ!」

「正直微妙ね。私達2人でどうにか出来るレベル。確実に先のダンジョンマスターよりは強いわ」


「愚問じゃぞ!」


 カリストを無視し、カズナは大きな溜息を吐く。


「……しゃーなし。ヴィーネ、通訳頼むわ」


「分かったわ」


 彼は一世一代の勝負を前に、懐から取り出した漆黒の仮面を被った。



 ――ダイアナは剣の血をきり、自嘲気味に首を振る。


「……いけないな。悪い癖だ」


 こんな場面、誰かに見られたらまた変な噂が立ってしまう。


 軽く笑った彼女は、しかし次の瞬間振り向き剣を構えた。

 眼光鋭く睨む先には、突如現れた2体の異形、と人間?


(……凄まじいな)


 ダイアナは一目で察する。

 この場所に入ってから狩ってきた有象無象とは、纏う殺気の次元が違う。

 この存在感、上位龍に匹敵するかも知れない。


 ……だからこそ際立つ、2体を侍らせる大した魔力も感じない仮面の人間。


「……何者だ?」


「こんにちは、自分ダンジョンマスターと申します」


「……む?」


 いきなりペコリ、と頭を下げるカズナを、ダイアナが訝しむ。

 その反応にラヴィナが苛つく。


「いつまで剣を向けているつもり?我が主が挨拶をしているのよ?……分を弁えろ」


「……ほぉ、人語を操るか。しかし済まない。敵陣ゆえ、承諾しかねる」


 ラヴィナとダイアナの間で、濃密な魔力が衝突する。

 その隣で吹き飛ばされそうになるカズナは、まったくもうっ、とラヴィナの突起を掴んだ。


「ひゃ⁉︎ちょっ、そこ掴まないでって!」


「落ち着けバカっ、俺はまだ死にたくない!」


 カズナは1つ咳払いし、ダイアナを見据える。


「俺はダンジョンマスター、この建造物の主です。貴女と少し話がしたいのですが、宜しいですか?」


 横目で彼を睨みながらも、ラヴィナが翻訳を開始する。


「……なるほど、貴殿がこの場所の主か。構わないぞ、私も興味がある」


「あざす。んじゃこっちどうぞ」


 ダイアナは彼に案内されるがまま、第5階層への扉を潜るのだった。


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