第48話 想定外




「…………は?」


 小ぶりな白い部屋の中。


 虫との視覚共有で外を偵察していたカズナが、森の出口付近に何かを見つける。


 笑う青黒い甲冑の女と、息を切らす魔法使い?


 少し思考が停止した後、頬を伝う冷や汗で目が覚める。


「いや待て待て待て、ヴィーネ、レストラン出てから何分くらい経った?」


「?20分くらいだと思うけど、どうしたの?」


 カズナは絶句する。


(……は?……50㎞を、20分で?単純計算で、時速150㎞で走って来た事になるぞ⁉︎いや落ち着け、落ち着け俺。きっとエルフの集落潰した時に出た斥候だ。そうに違いない。……それで、スポーツカーはどこだ?……)


 カズナの顔が青ざめる。


「ちょっとカズナ、どうしたのよ?」


 そんな彼の肩を、心配したラヴィナがゆする。


 カズナは半笑いで答えた。


「……敵だ」


「……随分速かったわね」


「速過ぎんだろ」


「でも良かったじゃないの。階層創るの間に合って」


「……まぁそうだけど」


 じっくりねっとり急ピッチで創った階層は、現在この何もない部屋を含めて5層になる。


 全て第1階層の町程の規模を有した、カズナ自慢の迷宮だ。

 多少腕に自信がある程度じゃ、踏破など夢のまた夢だ。


 カズナは一つ溜息を吐き、甲冑の女を見る。


「……お手並み拝見といきましょうか」


 虫越しに目の合った彼女を最後に、カズナの視界はブラックアウトした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る