第47話 しゅっぱーつ( ◠‿◠ )




 ダイアナ・アン・ベルガモット。

 二つ名は、『Titania妖精女王』。


 清廉潔白で正義を曲げない人格者である彼女は、多くの人から慕われ、ダイヤノーツの中でも最も人気がある冒険者である。


 しかしその実は、自分より強い者を探し求めては、飽きるまで戦い続ける生粋のバトルジャンキー。


 一説によると、ドラゴンは彼女のせいで滅びたと言われている。


「ドボル殿、未知のモンスターが出たと言うのは本当か?どこだ、教えてくれ。この時をどれ程待ったか!」


「落ち着け。今回はただの討伐クエストじゃないんだ」


 周りの人間を無視して興奮するダイアナを、ドボルが鬱陶しいと諫める。


「む。そうだった。あそこには腕の良い料理人が多い。分かったすぐに向かう」


「だぁから落ち着け」


 出て行こうとするダイアナの甲冑を、ドボルが引っ掴む。


「お前には大元の巣を破壊して貰いたい。マルテロからそう遠くない場所にある筈だ」


「了解した。以上か?」


「まだだ。俺も残ってる冒険者を連れてすぐに出るが、到着まで半日はかかる。お前達は先に行って、出来るならば問題を鎮圧しろ」


「心得た。以上か?」


「以上だ。行くぞ」


 ドボルは横に置いたハンマーを担ぎ上げる。


 扉を押し開け、下階に集まった冒険者達へと号令を出すのだった。



 ――各自準備の後、門の前に冒険者達が集結する。


 世界的スターである2人が揃ったとあり、街は一種のお祭り騒ぎだ。


 夜の街明かりと紙吹雪に煌々と照らされながら、ダイアナは腰の長剣を一撫し、


「……では、行くか」


 割れんばかりの歓声を背に、獰猛な笑みを浮かべた。



 門の外、地平まで続く暗闇を見据え、ダイアナとマミンが魔力を滾らせる。


「そうだマミン殿、冒険者を転移で運ぶ事は出来ないのか?」


「……あれはそんな便利な魔法じゃない。魔力消費が激しい上に、精々1度で100mが限界」


「500回転移すれば行けるではないか」


「……死ぬ」


 それもそうか、と笑うダイアナに、マミンはジト目を送る。


 底無しの魔力量を誇るダイヤノーツに、人の限界は分からないだろうに。


 ストレッチをするダイアナの横で、彼女は風魔法と重力魔法を使い宙に浮く。


「では、後程」


「ああ、頼んだ」


 ドボルが応えた瞬間、2人の姿が搔き消えた。


 遅れて冒険者達の身体を叩く烈風。

 その戦わずして分かる圧倒的な実力差に、皆口を開けて呆けしまう。


「おらお前ら!俺達も続くぞ‼︎」


「「「オ、オオッ‼︎」」」


 ドボルの叱咤に、鬨の声を上げる冒険者達であった。





 ――地を翔る音――風を切る音――はためく衣擦れの音。


 月明かり灯る宵闇の中、2つの影が景色を置き去りにする。


 途中数時間前に出発した偵察隊を見つけ、現状を報告した。


 マミンは高速で飛行しながら、眠そうな目を顰め、前を行くダイアナを追っかけていた。


 バタバタと靡く三角帽が、その余裕の無さを表している。


「……速い」


 彼女が愚痴る。


 動体視力には自信があるのに、ダイアナの足の回転速度が目で追えない。


 地面とはこんなに速く走れる物なのか?何だこの生物は、いや、生物であるかも怪しいぞ全く。


 マミンは本物の強者を見て、天才だの、小さな王冠だのと呼ばれ、浮かれていた自分を恥じた。


 そんな彼女を横目に、ダイアナが振り向く。


「マミン殿、少し休むかっ?」


「……いい」


 意地を張るマミンに、微笑ましい物を見たとダイアナが笑う。


「そうか!ならついて来い!」


 地面を抉り飛ばし、さらに加速するダイアナに、マミンは涙目になるのだった。



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