第44話 ようこそダンジョンへ



 ――土煙が濛々と立ち込める中心、更地になった周囲を見渡し、ザラザラは敵を探す。


「……ギチチチチ」


 頭から血を流す人間、起き上がろうとする人間、瓦礫の下敷きになった人間。


 ザラザラは気絶するシーラへ向けて、十字の口を開いた。


「――っ」


 しかし口が閉じる瞬間、間一髪、レノンが跳躍し、シーラを抱き抱えゴロゴロと地面を転がる。

 すぐに起き上がるも、目の前には開かれた大口。


(――っここまでか)


 レノンがシーラを庇おうとした、その時、


「ヌゥッ‼︎」

「っバルト!」


 瓦礫から抜け出したバルトが2人の前に滑り込み、左右の口にバスターソードをつっかえさせ、上下の口を剛腕と剛脚で受け止めた。


 ザラザラはそのまま3人を掬い上げ、強引に噛み砕こうとする。


「クッソっ」


 一気に押し込まれるバルトに、目が覚めたシーラとレノンも加勢し、何とか噛み潰されるのを防ぐ。

 ヤスリの様な歯に手が削れ、3人の顔が歪む。


「ギチチチっ」


 ザラザラが終わらせようと力み、3人もいよいよ覚悟を決めた。


 途端……、


「……」


 ザラザラの動きがピタリ、と止まった。


「……はぁ、はぁ、何だ?」


「はぁ、はぁ、分かんね、ぇッ⁉︎」

「グゥ⁉︎」「ぅうっ‼︎」


 と思ったのも束の間、再度顎に力が入り、今度は民家を破壊しながら全速力で移動を始めた。


 そしてその途中、


「グァっ⁉︎ば、バルトさん⁉︎」「ガァ⁉︎」「ゲェ⁉︎」「死にたくねぇ⁉︎」――


「お前達⁉︎」


 まだ生き残っていた冒険者達が、大口に掬い上げられ、モンスターの口の中で次々に集結してゆく。


 10人弱が集まるや否や、


「わあああアアアアアアアアアアア⁉︎」

「ギチチチチッ!」


 ザラザラは教会に突進し、扉目掛けて自身の頭部をぶち込んだ。


「ぺッ」


「ぐあっ」「きゃっ」「ぐはっ」


 ザラザラは冒険者達を吐き出した後、大破した扉から頭部を引き抜き、南門へと戻ってゆく。


 冒険者達は何が起きたのかも分からないまま、修復を始める扉を呆然と眺めることしか出来ない。


 バルトは気持ちの整理がつかないまま、手を持ち上げ、そこについた泥を疑問に思う。


 次いで曇天の空を見上げ、今更自分が雨に打たれている事に気付いた。


「……はっ、……俺は夢でも見てるのか?」



 冒険者達は彼の声につられ、後ろに広がる密林へと目を向けるのだった。


  

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