第43話 銀色の蛇
――東門が無くなっていたせいで、出口を探すべく外壁に沿って移動していたバルト、レノン、シーラの3人は、現在南門の近くで家屋を背に息を潜めていた。
「……何だよ、あれは」
「……」
「……化物が」
南門と思われる場所の前に、とぐろを巻く巨大な怪物。
銀色の鱗が、街灯に照らされ赤黒く光る。
「……どうする」
「どうするも何も、選択肢なんてあんのかよ?」
「……だな」
物陰に隠れたまま、レノンはシーラの目を正面から見つめる。
「シーラさん、俺らであれを引きつけます。隙を見て外に出てください」
「っ…………分かりました」
一瞬反論しそうになるも、彼女はギュッ、と言葉を飲み込む。
この状況が分からない程、自分は愚かではない。今この場において最も邪魔なのは、他でもない自分なのだから。
「ギルドを出る前、町の状況をリギラに報告しておきました。現在討伐隊が編成されていると思います」
「流石、手際がいい」
シーラはザラザラを目に、苦い顔をする。
「お2人共、本当にお気をつけて。あれを倒そうなどとは考えないで下さい。どう見ても、ルベリウスが相手するモンスターです」
「でもうっかり殺しちゃったら仕方ないですよね?」
「ふふ、……ええ、そうですね」
その言葉を最後に、シーラが数歩下がり2人から距離をとる。
「……それじゃ、行くか」
「ああ。あれを殺せば、俺らも英雄の仲間入りだな」
2人は1度深呼吸し、剣のグリップを強く握り締めた。
冒険者とは、常に死と隣り合わせの職業だ。この程度の修羅場、幾度となく潜り抜けてきた。
今回もその1つ、後に酒の肴となる話が増えるだけだ。
笑い合うレノンとバルトは、物陰から堂々と1歩を踏み出した。
「ギチチ」
魔力の気配に、ザラザラが鎌首をもたげる。
瞬間、
「『イシュケ・ハスタッ』」
「ギッ⁉︎」
水の大槍が3本、ザラザラの首に着弾する。
水魔法を放つと同時に駆けていた2人が、長大な胴体を全力で斬り付けた。
しかし、
「くっ」「――っ」
銀鱗が僅かに傷つく程度。触手犬の刃とは硬度の次元が違う。
「ギチチチチチチッ」
「ぐぁっ」「ぬぅっ」
ザラザラがとぐろを解放し身を捩っただけで、民家が大破し防御した2人は吹っ飛ぶ。
巨体とは、大した技術が無くともそれだけで脅威なのだ。
「――バルトォっ!」
「――ッ」
警告に瓦礫を蹴り飛ばしたバルトは、地面を抉り迫るザラザラに背を向けるのではなく、真っ向から突進する。
「ギチチチチチチッ」
悍ましい十字の口が眼前に迫った、瞬間、限界まで体勢を低くし顎下に潜り込み、
「『身体っ強化ァッ‼︎』」
全身の筋肉を膨張させ、身体を半回転、バスターソードを天に向けて振り抜いた。
「――ッッギガッ⁉︎」
ガオンッ‼︎と途轍もない金属音が轟き、ザラザラの頭が打ち上がる。そこへ間髪入れず、
「『イシュケ・ゲフェングニスッ‼︎』」
「――ギィ⁉︎」
レノンが片手剣を地面に突き刺し、魔法を発動。大量の水が大地を突き破り、うねり蛇の如くザラザラの巨体を縛り上げた。
「今だァ‼︎」
「――っ」
レノンがシーラに向けて叫ぶ。
――一心不乱に門へ向けて走り出すシーラ。
――鱗を逆立てるザラザラ。
――あと少し、あと少しっ、シーラが門へ手を伸ばした。
その時、
「ギェアアアアアアアッ‼︎」
「「「――ッ⁉︎」」」
ブチ切れたザラザラが、全身を高速で回転させ、周囲にある悉くを根刮ぎ抉り飛ばし、砕き潰し、吹き飛ばした。
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