第42話 作成開始




「よし」


 教会のドアを開け2階層に戻ったカズナは、食料を下ろしスクリーンを起動する。


 同時に表示される迷宮素のゲージは、既に初期値を軽く超過し、それでも尚加速度的に上昇し続けている。


「だいぶ増えたな。んじゃ模様替えするか」


「コンセプトは?」


「火山じゃ!」


「いや、ここは密林にする。奪った種族試してみたいし」


 瞬間、部屋の大きさが5倍程に広がり、カズナの視力では扉が見えなくなってしまった。

 次いで何もない床や壁から、一斉に密林特有の熱帯植物が生え出す。

 背の高い樹木が背を伸ばし、多種多様な草花が一気に部屋中を埋め尽くした。

 床は泥濘んだ大地に変わり、天井は灰色の空に変わる。


 見上げるカズナの頬を、ポツリ、ポツリと雨が打った。


「……すげぇな」


「ええ」


 初めてゼロから創った自分の世界に、カズナは感嘆する。


「これがダンジョンマスターの力か。まるで神じゃな」


 世界を構築してしまう、常軌を逸した力。これを神の御業と呼ばずして、何と言うのか。


 ラヴィナの作った魔障壁で強くなる雨脚を遮り、カズナは魔法陣を起動する。


 黒い光の後、丸い身体に等間隔の8本足がくっついた蜘蛛が現れた。

 1匹召喚されると、溢れ出るように50匹、100匹と召喚され密林の中にカサカサと消えてゆく。


(……それじゃあ、『樹形種』とやらを試してみるか)


 既にカズナの1部となった『樹形種』が、新たな主の声に目を覚ます。


 地面に緑の魔法陣が浮かび、ヤシの木が20本現れる。

 彼らはのそのそと草花を踏み潰し、密林の中へ消えて行った。


「トレントね」


 次にカズナは『異形種』と『樹形種』を組み合わせ、黒緑色の魔法陣を起動する。


「ほぉ、そんな事も出来るのか」


 カリストが驚く中、陣が光る。


 収まった後、そこに立っていたのは、紫色のベールを纏った人間染みた女であった。


「……」

「……何でよりによってコイツなんじゃ」


「え、いいじゃんドライアド」


 2人が戦ったドーラと似通った顔立ち。しかしその目に知性の光は無く、両腕は巨大な鎌の様になっている。

 近接戦闘特化の、魔改造ドライアドだ。


「よし、こんな感じでいいだろ」


 カズナはゲージを消し、食料を拾い、近くの巨大樹に向かって歩き出す。


 迷宮素にはまだまだ余裕がある。使い切るまで階層を創っていこうではないか。


 彼は一際背の高い大樹に手を当て、第3階層を作成、木製の扉を押し開けた。


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