第41話 酒の肴



「……やっぱあの2人、別格だな」


「そうか?妾には違いが分からん」


 カズナは未だ肉を頬張るカリストを押しやり、膨れた腹をさすりながら立ち上がる。


 後ろを向き、汗を垂らしてゼェゼェと息を吐く店主に向けて、満面の笑みを作った。


「店主、娘さん、めちゃくちゃ美味かった!ご馳走様!」


「あ、ありがとうございます!」「ありがとうございますっ」


 笑顔は言語を超える。料理人にとって、客の笑顔は何よりの喜びだ。


 満足気な3人の表情に、2人にも笑顔が溢れた。


「あと、残ったのは持って帰りたいんで、包んで貰ってもいいすか?」


「持ち帰り出来る?」


「勿論ですっ。すぐに準備を」


「はいっ」


 娘がセカセカと料理を纏める中、店主が恐る恐るカズナに尋ねる。


「……あの、」


「ん?」


「それで、助けていただけるという話なのですが、……私達はどうすれば」


 本来そのために全力で料理を作ったのだ。助けると言う話がなければ、香りを撒き散らす様な自殺行為、絶対にしない。店主の目が捨て犬の様に潤む。


「助ける話、忘れてないよな?って」


「ああ勿論。ここは襲わないよう命令したから、普段通り生活してもらって構わないぜ」


「ダンジョンの外に出す?」


「いや、いい。町で暴れてるモンスターは1日くらいで退かせるから、その後は彼らに任せるよ」


「……(退かせる?何故)……そう」


 少しだけ引っ掛かるも、ラヴィナはカズナの言葉をそれらしい理由に変換し、店主に伝える。


「あと1日でモンスターも静かになるはずよ。それまで隠れていなさい」


「は、はい。あの、あなた方は」


「誰もここに入らないよう、外で見張っているわ」


「わ、分かりましたっ。ありがとうございますっ」


 お礼を背中に、3人は包んでもらった大量の料理を肩に下げ、扉を潜る。


「そんじゃ、ご馳走様。機会があればまた来ます」


「美味かったぞ。褒めて遣わす」


「ご馳走様」


「「ありがとうございました。またのご来店を」」


 扉が閉まった瞬間消えた3人に、店主と娘は今日何度目かの驚愕を浮かべる。


「……不思議な人達だったね」


「……ああ」


 化物染みた食欲の女性に、気品のある彼女と、異郷の彼。

 周りがモンスターだらけだと言うのに、少しも動じていなかった。階級は分からなかったが、恐らくルベリウス以上だろう。


「……相当な実力者なんだろうな」


 刻一刻と、元の平穏から遠ざかっていく街の景色を、2人は窓から眺めるのだった。


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