第36話 結果発表ーーーーッ!!!
――「うーん、……少しカビ臭い。でも異世界っぽくていい」
医務室のベッドに腰掛け、カズナは渡された水をあおる。
「ングっ。プハー!
……しっかし、前世でもう少し体動かしときゃよかったぜ。明日絶対筋肉痛だわこれ」
20代が聞いて呆れる。現代の若者の運動不足問題を、身を以て感じてしまう。
これにはカリストも御立腹だ。
「全くじゃ。見ていて恥ずかしくなったぞ」
「……やめろよ、照れるじゃねーか」
「張り倒してやろうか」
やいのやいのと取っ組み合う2人に、ラヴィナがクスリと笑う。
「それで?これからどうするの?」
「……そうだなー。
とりあえずこれで冒険者になれるだろうから、クエスト2つくらい受けて、町観光して、最後に派手にぶっ壊すか」
「お!いいのぉ!燃やすか?」
壊すという単語を聞いた途端、テンションの上がるカリスト。最早単純すぎて清々しい。
とそこで医務室のドアがノックされ、バルトとシーラが入ってきた。
「カズナさん。結果が出ましたので、ご報告します」
「結果出たって」
「おお!ありがとうございます!ランクは何ですか?Sですか?」
「不合格です」
「不合格だって」
「ふご……え?…………え?」
採点用紙を持って気まずそうに告げるシーラを、2度見する。
「不合格だって」
「……二度も言うな」
笑いを堪えるカリストと、まぁそうだろうと表情を変えないラヴィナに挟まれ、カズナは床に崩れ落ちた。
「こちらの項目を半分クリアすれば、合格だったのですが」
「……え、何これ、ガチじゃん。ガチ試験じゃん」
渡された採点用紙にびっしりと書き込まれた評価基準に、カズナは瞠目する。
水晶で測ったり試験で俺ツエーなんてのは、真っ赤な嘘だったのだ。
前世で予習した努力は、全て無駄だったのだ。あの問題集は詐欺だ。今からでも伝えないと。
「……ちなみにどこが1番ダメでした?」
「どこ、1番ダメだった?」
「圧倒的に体力だな。体力があれば長く逃げられる。長く戦える。冒険者にとって最も大事なものだ」
バルトが腕を組む。
「体力」
「なるほど」
「……それにお前、剣を振ったこともないだろう?赤子でももう少し芯のある剣を振るぞ」
「剣筋が赤ちゃん以下だって」
「ブフっ」
「……笑うなよ。否定できないけど」
カリストをジト目で睨むも、ど正論に言い返す事ができない。
まさか初手で躓くとは。ここにきて剣を振らない地球人の弱さが出てしまった。
カズナが落ち込み項垂れていると、見下ろすバルトがその肩を叩く。
「だが、諦めんとするその姿勢は良かった。あの目は誰にでも出来るものじゃない」
「……諦めない姿は良かった。って」
「ぉおおっ!師匠っ、アザぁす!」
悪い所だけでなく、良いところも褒めて伸ばす。良い指導者の典型例だ。
自分はこの人について行こう。今決めた。そう決めた。
くだらない事を考えているカズナに、シーラが別の紙を渡す。
「……これは?」
「今回は残念でしたが、カズナさんは冒険者を志望しているとのことですので、ギルドの簡単な仕組みをですね、先に説明してしまおうかと思いまして」
「ギルドの仕組みを教えてくれるって」
「おお!あざす!」
その申し出はダンジョンマスターとして有り難い。
今後に活かせるかも知れないし、何より冒険者の等級を知れるのだから。
シーラが軽く咳払いし、説明を始める。
「まず冒険者ギルドというのは、様々な場所から来る依頼を仲介する役所です。
その依頼は採取、護衛、討伐など多岐に渡ります。この依頼を受ける者達の総称を、冒険者と言うのです」
「……ふむ」
彼はラヴィナから翻訳を耳打ちしてもらい、頷く。
地球の頃培った冒険者の認識で、大体合っているようだ。
「冒険者は、一般には全ての人に門戸が開かれています。
ですが試験を突破するには、最低限の戦闘、識字、計算能力が必要になるため、決して誰も彼もがなれる訳ではありません」
「ふむ……ん?識字⁉︎計算⁉︎」
前言撤回だ。この世界の冒険者は、自分の知っている『ぼうけんしゃ』とはかけ離れている。
そりゃ考えてみれば、報酬が絡む依頼を受ける人間が、字を読めない、書けない、計算出来ないなんて論外だ。
自分が予習した過去問の方が異常なのだ。やはり他人の妄想など使い物にならない。
「戦闘試験をパスした場合、次に簡単な識字、計算の試験が必要となりますので、その……頑張って下さい」
項垂れるカズナに、シーラが苦笑した。
しかし落ち込んでいても仕方ない、と彼は顔を上げ、気になった事をラヴィナ経由で尋ねる。
「この国の教育制度ってどんなもんなんすか?」
「……教育、ですか?そんなに詳しい事は分かりませんが、都心には初等部、中等部、高等部の学院がありまして、主に貴族や豪商などのお金持ちが行く場所ですね。
一応この町にも寺子屋はあるので、学習は出来ますよ」
その説明を聞いて、カズナは成程と関心した。
この国、あるいはこの世界の教育水準はそれ程高くない。
要するに冒険者とは、一攫千金を夢見た豪胆な者達が、努力の末につける名誉ある職業なのだ。
平たく言えば、彼らは文武両道のエリート集団だ。
「……そりゃぽっと出の俺がなれる訳ないわな。努力が足りてねぇ。……おけ、続けてくれ」
天を仰ぐカズナは自分の浅はかさを笑い、先を促す。
「……はい。最後に、冒険者の中には階級が存在します。階級は、こなした依頼の難易度に応じて、順に上がっていく仕組みです」
「……おお!」
遂に来た。彼は異世界定番イベントに身を乗り出す。
「冒険者になった際、プレートが渡されます。そのプレートの元になる鉱石が、その者の階級を表します。
新人が緑色の、メラルド鉱石。
中堅が青色の、サフィア鉱石。
ベテランが紫色の、ジアメスト鉱石。ここで一流の冒険者としての箔が付きます。
次が英雄級、赤色のルべリウス鉱石。
彼等は1人1人が、一騎当千の強さを誇ります。人類の到達可能域を限界まで極めた、まさしく英雄達です。
……そして最後が、白銀に輝く、ダイヤノーツ鉱石。
世界でも数える程しかいない彼ら彼女らは、まさに生ける伝説。
1人で1国と戦争をして渡り合った者。
海を割り国を興した者。
広大な砂漠を1夜で密林に変えた者。
偉業を挙げればきりがありません。
この階級は、そんな人の尺度では測れない力を持つ者に送られる、称号の様な物です」
興奮気味に語るシーラに、カズナは息を飲む。
やはりこの世界には、とんでもない人間が存在するのだ。
ちらりとバルトの胸元を見れば、紫色のプレートが輝いている。
人外のダイヤノーツとやらも見てみたい反面、身体を駆け巡るのは大量の鳥肌と恐怖だ。
「……ヴィーネ、カリスト、そん時は頼むよ。ほんとに」
「……ええ」「……ああ」
ビクビクと怯えるカズナの後ろで、化物2人は楽しそうに口を歪めるのだった。
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