第35話 いざ、冒険者試験へ
ギルドの裏、隣接する場所に建てられたグラウンドにて。
「それでは今から、カズナさんの冒険者実技試験を始めます」
グラウンドの中央に立つバルトとカズナに、シーラが宣言する。
その周りを他の冒険者やラヴィナ、カリストが囲み、見守る。
「試験時間は10分です。カズナさんはその間に、バルトさんを好きに攻撃して下さい」
「……?」
「10分以内に、目の前の男を殺せば良いらしいわよ」
「殺すの⁉︎」
バルトがバスターソードを構えるのを見て、カズナも渡された長剣を慌てて構えた。
長年夢見た冒険者への登竜門。
気合は充分だ。
「それでは、始めて下さい!」
「シャアっ!2人共っ、手ぇ出すなよ!」
「……」「……」
シーラの掛け声と同時に、カズナは躊躇なく1歩を踏み込む。真横からフルスイングした長剣は、
しかし甲高い金属音を上げて弾かれた。
「いっっっ」
腕を伝わる嘗てない振動。鉄骨をぶん殴った様な感触に、何とか長剣を落とさないよう力を込める。
「……モンスターは待ってくれないぞ」
「――っ」
振り下ろされるバスターソードを、蛙の様に飛び、辛うじて躱した。
「……回避動作がデカ過ぎる。剣から目を逸らすな」
「っちょっ、何て⁉︎あぶなっ」
無造作に振るわれる一撃が、自分にとっては必殺になりかねないのだ。そんな攻撃が空気を唸らせ、連続で耳を掠める。
……間違いない。
(確実に、殺しに来てやがるっ⁉︎)
そう確信するカズナ。
とは反対に、2人の模擬戦を見る外野は、無表情を通り越して呆れていた。
「……10歳の時の俺でも、もう少しまともに動けたぞ」「生まれたての兎を見てるみたいだ」「……俺らもあんな時があったんだよな」「ああ、懐かしくて泣けてくるぜ」「だから新人試験を見るのは、やめらんねぇんだよ」「ほら頑張れ‼︎」「そこだ!そうじゃねぇ‼︎」「剣使えや‼︎」
過去誰もが通った道。
未熟だった頃の己を思い出す冒険者達が、怒号に似たエールを飛ばす。
一気に喧しくなる訓練場に、カリストは舌打ちし溜息を吐いた。
「……醜態を晒し人間に弄ばれて、あ奴は何がしたいんじゃ」
「これが夢だったらしいわ。彼の」
「この状況がか?」
「ええ」
ラヴィナの見つめる先には、何度も剣を弾かれ汗を飛ばし、しかし心の底から笑っているカズナがいる。
「……妾には理解出来んな」
「私だって無理よ。……でもカズナが、王がしたいと言っているのよ。その願望を叶えるのが、私達の役目でしょ?」
「……ふん」
彼のやりたいと言った事が自分達配下の指針であり、やるべき事である。それがラヴィナの決めた信条であり、決意だ。
故に彼の行動に、幾らダンジョンマスターとしての生産性が無くても、彼女だけはその全てを肯定する。
カズナの保護者の様な位置に立つ彼女は、そんな肩で息をする頼りない主に向かって、……魔法を展開した。
――(……そろそろ終わらせるか)
バテてヘロヘロになったカズナへ向けて、バルトが剣を回転、柄頭を打ち出す。
悪ければ気絶するだろうが、冒険者になろうと言うのだ。その程度で泣き言を言っていては、先などない。
亀の様な遅さで剣を振るカズナの腹に、柄が減り込む。
……直前、
「――っ⁉︎」
見えない壁に柄が弾かれ、バルトがヨロめいた。彼はヘロヘロと迫る長剣を手の甲で弾き、首を回す。
(……あの女の、どちらかか)
速すぎて気付けない程の魔法構築速度。あの2人の見た目といい実力といい、底が知れなさすぎる。
バルトは剣を引きずり尚も戦おうとするカズナを確認し、シーラへ合図を送る。
「終了だ。こいつも限界だろう」
「分かりました。カズナさんもいいですか?」
「ゼェ、ゼェ、ぇ?ハァ、ハァ、」
試合を止められたカズナはぶっ倒れそうになるも、転移したラヴィナに支えられる。
「いいわ」
「っ」「わっ。今の空間魔法の『転移』ですか⁉︎それに共通語、話せたんですか?」
「少し。今勉強中よ。それと彼を休ませたい。どこ?」
「あ、はい、医務室ですねっ。こちらです」
案内するシーラに連れられ、ラヴィナ、カリスト、カズナは談笑しながら歩いて行く。
その3人の後ろ姿を目に、冒険者達はスゲェヤベェと騒ぐのだった。
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