第33話 冒険者ギルド




 ――花々で飾られた、可愛らしい木組みの建物を見ながら、3人は衛兵に連れられ町を簡単に散策する。


 立ち並ぶ商店、

 広場に上がる噴水、

 無邪気に遊ぶ子供達。


 途中なぜか町長に会わされたりもしたが、些細なことだ。


 日本で生きていては感じられなかった異世界の風土に、カズナは感無量であった。


(……でも、何でこんな親切なんだ?……まぁいいか)


 きっと人柄の良い町なのだろう。


 手を振ってくれる住人に手を振り返し、のほほんと町の空気に浸る。


 20分程で元いた場所に戻ってきた彼らは、しつこく護衛しようとする衛兵を断り、ようやく自由の身となった。


「案内までしてくれるとは、優しい人だったな」


「たわけが、興味のない場所を散々連れ回しおって。貴様が止めてなかったら、あ奴は10度消し炭になっておるぞ」


 吐き捨てるカリストが、心底疲れたと言わんばかりに伸びをする。


「それで?これからどうするの?」


「勿論、冒険者ギルドに直行よ」


 先程場所を教えて貰ったギルドへと、3人は足を運ぶのだった。



 ――中央道りの奥、石造の立派な建物こそ、この町の冒険者ギルドである。


「……スゥゥ、ふぅぅ」


 カズナは1度深呼吸し、大きな木製の扉に付いた鉄のノブを握りしめ、ゆっくりと押し開けた。


 途端鼻に香る、年季の入った木とアルコールが混ざった様な匂い。


 ああこれだ、これこそが異世界の匂いだ!知らんけど。


「こんにちはー」


 どうやら自分達が起こした騒ぎのせいで、冒険者は出払っているらしい。


 3人はガラガラの室内を見渡しながら、受付カウンターと思しき場所に腰掛けた。


「あの〜、すみませーん」


「え?あ、はい!少々お待ちを!」


 奥で整理をしていたシーラは慌てて窓口に座り、すぐに受付嬢としての営業スマイルを貼り付ける。


「ようこそマルテロ支部へ。本日はどの様なご依頼でしょう?」


「冒険者になりたいんですけど」


「……ん?」


 聞いたことのない言語に固まるシーラ。


「すみません。もう1度お願いできますか?」


「ん?もう1度?俺、冒険者、なりたい」


 カズナはジェスチャーで剣を振ったりモンスターを表現したりして、何とか言いたい事を伝えようとする。


 それをシーラは凝視し、……閃いた。


「……冒険者になりたいのかな」


 そうと分かれば話は早い。

 シーラは3枚の紙を取り出し、カウンターに並べた。


「それではこちらの紙に、名前と、希望職を」


「……名前か?」


「ええ。あと希望の、仕事?を聞いてるわね」


「言ってること分かんの⁉︎」


 早くも異世界語を習得し始めたラヴィナに、彼は驚愕する。

 いくら何でも早すぎやしないか?


「町中の話し声や感情から、言語パターンを割り出しただけよ。まだ不完全だけど」


「いや、充分ヤバいでしょ。何それどうやんの?」


 カズナは改めて、彼女の分析判断能力の高さを恐ろしいと感じる。


 もしこんなのが敵に回ったら、絶対に殺される自信がある。


「んじゃ通訳頼むよ」


「出来る範囲でね」


 紙にカタカナで名前を書き、長剣のマークに丸をつけ、彼は残る2枚を2人に見せる。


「妾はいらんぞ」「私も興味ないわ」


「だそうです」


「……あ、登録は1人だけですね。(これ何て読むんだろう……)かしこまりました。

 では実力試験を行いたいのですが、今冒険者が出払っておりまして。

 ですので1時間後に、もう1度お越し頂いても宜しいでしょうか」


 シーラが身振り手振りで必死に伝える。


「……何て?」


「……力試し、試験?みたいなのをやりたいから、1時間後に来いって」


「実力試験だなっ?オッケ分かったぜ!あざしたー」


 カズナの反応を大丈夫ととったシーラはホッと一息吐き、去っていく3人を見送るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る