第32話 邂逅



 ――そして現在、マルテロ南に位置する門の手前。

 カズナは予想通り騒がしくなっている北と東に目を向ける。


 とそこで、歩いている3人に、周辺を調査していた冒険者と外壁の上の衛兵が駆け寄ってきた。


「ん?お前達!町に用かっ?(なぜドレス?)」


「はい!私達記憶喪失でヤバイのでっ、あまり深いことは聞かず町に入れて下さい!」


「……何て?」


 異世界人達は、奇怪な者を見る目で3人を見定める。


「何故ドレスを着てるんだ?」「今日お偉方の来訪予定あったか?」「こんな辺境にお偉方が来るわけねぇだろ」「それもそうだ」


「……えっと、どこかの大使様でしょうか?」


「初めまして。自分ダンジョンマスターです。入れて下さい」


「……う〜ん。どこの言葉だ?」


 衛兵は何とか意思疎通を試みるも、聞いたことのない言語に頭を捻る。


 そこへ、騒ぎを聞いたバルトが歩いてきた。


「どうした?」


「あぁバルトさん、この方々と話したいのですが、言語が分からず」


「そうか……なぜドレスを?」


「分かりません」


 バルトは1度カズナの顔に目を向け、手を差し出す。


「私は冒険者を生業にしています、バ、ル、ト・アイゼンブルグと申します」


「バルト?名前か?」


「恐らく」


 その手を握るカズナに、ラヴィナが答える。


「私はカ、ズ、ナ、です。宜しくお願いします」


「カズナ、殿か?」


「そうですそうです」


 バルトは記憶を探るが、この辺にその様な名前の貴人はいない。


 本来名前は身分の証になる。ラストネームには出身地が入るのが普通だが、それを名乗らないとすると、明かしたくない事情があるという事。


 エルフと火柱の件もある。怪しいが、見るからに高貴な人間、無下に扱う訳にもいかない。


「ところで馬車はどちらに?」


「……馬?は、逃げました」


 バルトのジェスチャーを読み取ったカズナは、東を指差す。


「(……先の黒炎で逃げたか)分かりました」


 彼は再度カズナの面立ちを確認し、カリストとラヴィナのドレスの様な服を見た。


「……入れてやれ。客人だ」


「良いのですか?」


「ああ。恐らくお忍びでやって来た遠い国の方だ。あの顔立ち、1度だけ見たことのあるアマトラの民に似ている」


「遥か東にあるという、あの島国ですか?」


「ああ。それに見たら分かるだろ。

 普通の人間がドレス着ながら草原歩いたりするか?そんな者箱入り貴族か、余程の阿呆だけだ」


「……確かに」


 衛兵達が話す中、当のカズナは、彼らが勝手に良い方に解釈してくれているとはつゆも知らず、鈍い音を立てながら開く門をドキドキと見つめる。


 初めて見る異世界の町並みは、一体どんな物であろうか。


 開き切る門へ向け、衛兵が手を指し示した。



「ようこそ、冒険者の町、マルテロへ」

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