第31話 性癖ガンギマリ




 ――そして数十分後。


「…………で、できた」


 彼の前には、自身の欲望を最大限まで詰め込んだ、絶世の美女が2人、凛とした姿勢で立っていた。



「……ふむ、これが貴様の思う妾か。……悪くない」


 嫣然と微笑む唇には真紅の紅が引かれ、

 この世の全てを傲慢に見下す瞳は瞳孔が縦に割れ、炎を閉じ込めた様な猛々しさを放っている。

 腰まで届く紅色の長髪には緩くカールが掛かかり、所々でドリルが控えめに存在感を主張する。

 綺麗な流線を描く豊満な双丘を、鮮血の如く赤いドレスが支えていた。



「……」


 薄桃色の唇は横一文字に引き結ばれ、

 まなじりの上がった目も合間って、どこか冷たい印象を与える表情。

 瞳の中で揺れる冷然とした瑠璃色の輝きは、万物を見透かし、読み解き、王へと献上する。

 肩口で切り揃えられた白髪は、王に捧げた忠誠心の如く純潔で、高尚たる美しさを孕んでいる。

 首から足首にかけ、身体のラインに沿う様な真っ白なタイトドレスを身に纏う彼女は、氷で出来た知的な眼鏡を、クイ、と上げた。



「最高だ、最高だぞ2人とも‼︎」


 渾身の出来に、カズナは360度から彼女達を舐め回す。


 しかしノリノリでポージングを取るカリストとは反対に、ラヴィナは不満げな視線を自分の胸に向けた。


「……なぜ私の胸がこれで、カリストの胸がアレなのよ」


 ラヴィナは、彼が異常に女性の胸に興味を持っていた事を覚えている。

 それなのに、自分の小ぶりな物に比べ、彼女の物は今にもはち切れそうだ。嫌がらせか?嫌がらせなのか?


 カリストはドレスの下に潜り込もうとするカズナを踏みつけ、勝ち誇ったように鼻を鳴らす。


「何が不満なのじゃ?カズナはよく分かっておるぞ?そもそも貴様には胸など無かろうて。丘が出来ただけでも、狂喜乱舞するのが筋じゃろう?クハハハハっ」


「……チッ」


 彼女が殺気の籠った目で睨みつけるも、カリストはどこ吹く風。


 しかしそこで、鼻血を垂らすカズナが地面から起き上がった。


「カリスト、分かってないな」


「……何?」


「おっぱいはデカけりゃ良いってもんじゃない。その人にはその人に合った、おっぱいの形が必ずあるんだ。性格、体型、表情、喋り方、仕草、全てにマッチするおっぱいこそが、その人が最も輝くおっぱいなんだよ!」


「――っ」


「俺に言わせりゃ、巨乳好きも、貧乳好きも、論外過ぎて反吐が出るっ。おっぱいの何たるかをまるで理解していない!

 おっぱいとは個であり全だ。その一切合切を愛してこそ、真のおっぱいフェチなんじゃねぇのかよ‼︎」


 言い切ったカズナに、カリストが膝から崩れ落ちる。


「……妾が間違っていた」


「分かればいいんだよ」


 互いに手を取り合い、歴戦の友の様な表情を浮かべる2人を、ラヴィナは心底冷めた目で見つめていた。


(……何を言っているのかはまるで理解出来なかったけれど、大して重要でないことは確かね)


 心底無駄なことに悩んでしまった。と、彼女は落ちている地図を拾い上げる。


「……ほら、馬鹿なことやってないで、行くわよ」


「へい」


「よし、妾について来い!」


 人の姿を手に入れた3人は、大手を振って草原へと踏み出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る