第29話 人間達が見た物





 何だ何だと近づく冒険者達に、彼は息を切らしながら説明している。


「どうしたんだ?」


「――だから1回外出てみろって!あぁバルトの旦那っ!外出てみてくださいっ、神樹が凍ってるんすよ!」


 言われるがまま、冒険者達がぞろぞろと外に出る。

 町の中は既に騒ぎになっていた。


 天を突き抜ける超巨大樹が、陽光に照らされ冷たく輝いている。


「……なんだありゃ」


 1人の冒険者の小さな呟きは、皆の心境を代弁していた。


 神樹を凍らすなど、普通に考えて不可能だ。

 それにあの場所には、エルフの集落がある。彼らがそんなことを許す訳がないのだ。


 酔いの覚めたレノンは、集まる新人冒険者の総数を数える。

 合わせて20弱。そんな彼らに向かって歩きながら指示を飛ばす。


「半数は俺について来いっ、森に入るぞ!もう半数は周辺を警戒しろ!バルト、ここの指揮頼めるか?」


「ああ」


「シーラさんはこのことをギルド本部に伝えて下さい」


「は、はい!」


 微笑んだレノンは、片手剣を腰に差し声を上げる。


「それじゃあ、行くぞお前ら!」


 レノンは冒険者達の雄叫びを背中に、馬に飛び乗った。



 ――そして約30分後、偵察隊の彼らはエルフの集落、だった場所に到着する。


「……何だよ、これ」


 外壁が氷に覆われ、辺りに冷気を漂わせている。


 その上に立つ、幾人もの人型の氷像。


「レノンさんっ、氷で門が開きません!」


「どいてろッ。っ何だこの固さ⁉︎」


 彼は得意の水魔法でぶち抜こうとするも、そのあまりの頑強さに驚愕する。

 これ程の氷魔法の使い手など、見た事がない。


「しょうがねぇ。俺が向こう側まで連れてくから、近くに来いっ」


 そうして水魔法で全員を中に入れたレノンは、魔法を消すのも忘れ、変わり果てた集落に絶句する。


 氷に閉ざされた銀世界には、生命の息吹が一切感じ取れない。


「っ生存者を探せ!」


 彼が焦り声を張った、その時、




 ――ッドゴォォオオンッッ‼︎‼︎




 遠方から、耳を劈く様な爆音が轟いた。


「ッんあ⁉︎」

「――ッ今度は何だってんだ⁉︎」


 本当に今日は目まぐるしく色々なことが起こる。


 音の方向に目を向けた彼等が見たのは、


「……嘘だろおい」


 雲を突き抜ける、煌々と輝く黒炎の柱であった。



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