第3章 観光しようぜ観光!!
第28話 平和の町マルテロ
――オレンジ色の屋根が規則的に立ち並び、石畳が靴に叩かれ乾いた音を鳴らす。
広がる畑には青々とした緑が実り、小さいながらも商店は活気に溢れていた。
自然を好むエルフの集落とを繋ぐこの町は、アデルの大森林に隣接していることもあり、1年前まではモンスターを狩るための冒険者達の拠点として重宝されていた。
しかし今では町を訪れる者も減り、夢を諦め切れない新人冒険者がチラホラと様子を見に来るだけ。
町の中央に立つ一際大きな建物は、そんな彼らの溜まり場、冒険者ギルド・マルテロ支部。
今日も今日とて奥の酒場には、自堕落に時を過ごす冒険者達の姿が見て取れる。
「……おれぁよ、まぃにちまいにち、けもの狩るために冒険者になったんじゃねぇんだよぉ」
愚痴る男は、ぼさぼさのくすんだ金髪をテーブルに投げ出し、ジョッキを掴もうとするが目測誤りからぶる。
「……てめぇ次同じ話したら豚の餌にするぞ」
「バルトよぉ、もっかいぼうけんしてぇなぁ」
「……そうだな」
バルトと呼ばれた筋骨隆々の男は、ジョッキの中で揺れるビールをつまらなそうに見つめる。
「……バルトよぉ、おれぁもうけものぁ狩りたくねぶグハァッ!いきなり何すんだ⁉︎」
「残念だが、お前はもう冒険は出来ない。豚の餌になるからな」
「何で⁉」
殴られた男が目を白黒させ必死に謝るが、問答無用でバスターソードを引き抜くバルトに見かね、
「もぅバルトさんレノンさん、若い子達に示しがつきませんよ?」
1人の女性が制止に入った。
美しいブロンドをポニーテールに結び、赤茶と白を基調とした制服を身に纏う女性。
ハリのある肌にクリクリとした大きな瞳。
可愛らしいという言葉は、彼女のためにあると言っても過言ではない。
「……済まない、こいつの願いを叶えてやりたくてな」
「誰がいつ豚の餌になりたいだなんて言った⁉まったく、ごめんなさいねシーラさん、お詫びに今度デートしません?」
「ここでは床が汚れるので、解体小屋でお願いしますね?」
「それもそうだな」
「だから何で⁉」
シーラは戯言を綺麗に受け流し、受付嬢としてギルドの床を守る。
「ところで、バルトさん達はここに来て長いですけど、定住でも考えているのですか?」
冒険者とは本来家を持たない。
クランに所属する者には専用の屋敷があるが、彼らは所属していなかった。
個人の冒険者が半年も拠点を変えないと、定住と見られてもおかしくないのだ。
「いや、ここは居心地が良いからな。近場は色々と回ったが、モンスター1匹出やしない。
遠方からもそういった噂は来てないだろ?」
「そうですね、本部も躍起になって探してるみたいですけど」
「まったくよぉ、絶滅ったっても少し波があるだろーに」
「同意だな。ここまで来たら認めるしかないが」
レノンは再び席に着き、不貞腐れたように酒をあおった。
「はぁ……私も仕事探さないとかな」
彼女は辞めていった従業員仲間を思い出す。
もうこの町にいる受付嬢は彼女1人であった。
自分の未来がお先真っ暗なのを自覚して、深いため息が出てしまう。
とその時、
「っおいッ‼アデルの神樹が凍り付きやがった‼」
扉を開け放ち、1人の冒険者が飛び込んできた。
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