第25話 冷熱相克



 カズナは自分の足を飲み込む炎に飛び跳ねる。


「っあっつ……くない?」


「当然じゃ。王を燃やしてどうする」


「おっしゃる通りで。……(それにしても)」


 彼女の胸元、大きく肌けた豊かな双丘に目が吸い込まれしまう。

 それもう見せに来てますよね?見ても問題無いですよね?悪いのはあなたですからね?


 チラチラとした露骨な視線に、彼女が妖艶に笑う。


「なんじゃ?これが気になるのか?」


「え、いや、なんのことでしょう?私は何も見てませんし触りたいなどとは微塵も」


「黙れ変態め。ほれ」

「ぬむぉ⁉︎」


「な⁉︎」


 一瞬で接近した彼女が、カズナの顔をその豊満な胸に無理矢理沈めた。


「え、エロいっ、何てけしからん身体なんだっ。フガフガ」


「クハハっ、妾の虜になるがいいさ」


 そんな光景を目の当たりにするラヴィナの瞳から、みるみる光が失われてゆく。


 ……辺りを燃やし尽くしながら、無駄についた脂肪で主を溺死させようとする女。

 そんな状態を拒みもせず、鼻を伸ばす威厳もクソもない自分の主。


「……」


 ラヴィナの中で、何かが弾けた。同時に一帯が炎諸共凍り付く。


「っちょ、ま、ヴィー」


 もがく彼を無視して、ラヴィナは目の前の女に極寒の視線を送る。


「……どんな仲間が出てくるのかと思いきや、自分の力も制御できない下劣な売女だとは、心底落胆した上に、呆れを通り越していっそ可哀想にすらなってくるわね」


「誰じゃ貴様?魔力が弱々しくて気付きもせんかったわ」


「……チッ。私はラヴィナ。貴女は……あぁ、まだ名前も無いただのモンスターだったわね。名前はビッチでいいかしら?お似合いだと思うのだけれど」


「……チッ」


「息できなっ」


 寒波と熱波が衝突し、脆くなっていた家屋が吹き飛んだ。

 炎の美女は地面に落ち、ラヴィナを見上げる。


「クフっ、クハハっ、いきなり出しゃばってきて散々罵った挙句、妾を見下すなど傲慢の極み。

 ……塵にしてくれるわ」


「……やってみろよ」


「まっ、離しっ」


 爆発的に燃え上がる大炎と冷気に巻き込まれ、大樹がへし折れ、集落そのものが崩壊を始める。


 炎の勢いは更に強くなり、徐々にラヴィナが押され出した。


「クハハっ、たかが種火を消した程度で、随分と大見栄張れたものよなぁッ」


「……クソっ」


 女の拘束が、高笑いで緩んだ。


 その瞬間、


「クハハハ」

「離しなさいゆーてるでしょうがッ⁉︎」

「ィキャンっ⁉︎」


 彼女の胸をぶっ叩き、カズナが勢いよく飛び出した。

 胸から抜け出した彼は、ゼーハーゼーハー、と盛大に息を吸う。


「ハァ、ハァ、マジで死ぬかと思ったぞバカ野郎」


「わ、妾の胸を叩くとは、何という奴よ」


 涙目の女に、空気の有り難みを噛み締めるカズナ。


 ラヴィナはそんな光景に呆れ、一旦攻撃を止めた。


「取り敢えずっ。2人とも、そこに正座!」


 カズナが焦げた地面をビシィ、と指さす。

 毎度毎度こんなことが起きたんじゃ身が持たない。彼女達にはしっかりと分かっておいてもらわなければ。


「……何で妾が」


「いいから!今度は揉みしだくぞ⁉︎」


「……あい分かった」


「ヴィーネも!」


「……私は悪くありません」


「い、い、か、ら!」


「……」


 素直に正座する炎の女と、地面にふにょん、と着地するラヴィナが俯く。


 そんな彼女達を見て、カズナは1度大きく息を吐いた。


「……いいか?お前達2人は、俺の性的欲求をこれでもかと詰め込んだ、欲望の塊みたいなもんだ。それに欲情するなって方が無理だろ⁉︎俺はこれからもお前達をエロい目で見るし!どっちも俺の中では1番の理想の異性なんだよ!

 分かったか⁉︎」


 自分の性欲をぶちまけるカズナに対して、2人の目が点になる。


「……貴様、言ってて恥ずかしくないのか?」


「…………(理想の異性)」


 一気に空気が弛緩し、焼けた地面と凍り付いた木材が乾いた音を立てる。


「恥なんてあるもんかっ。お前達は俺の最高傑作だ!」


「……まぁ、悪い気はせん」


「…………(理想の異性)」


 満更でもない2人を見て、空気が元に戻ったのを感じたカズナは、1度深く呼吸をし気持ちを入れ替えた。


「遅くなっちまったが、お前に名前を与えたい。いいか?」


「おお!勿論だ!」


 目を輝かせる彼女がまるで子供の様で、カズナは苦笑してしまう。


「お前は、カリストだ」


「……カリスト……悪くない。うむ。むふふ」


 彼はニヤニヤを噛み殺すカリストに微笑み、ようやく本題に入る。


「そんじゃこれから、作戦内容を話すぜ?」


「作戦?何じゃ、戦争か?」


「ああ。カリストにはまだ言ってなかったけど、俺達は今から敵のダンジョンに攻め込むんだ。いきなりで悪いけど、いけるか?」


「クハハっ、愚問よな。丁度暴れ足りなかったところじゃったしの」


「……」


 カリストとラヴィナの視線が、静かにぶつかる。


「……カズナさm……カズナ、敵戦力はどれ位に見てる?」


「お?おお。雑魚に関しては例え1000匹いようと、お前達の敵にはならないだろう。緑に発光していた女だが、恐らくお前達と同じく、外で行動できる強力な個体だ。最初は数的優位で当たれ。必要ないと感じたら各個撃破でもいい」


「分かったわ」「あい分かった」


「……それからダンジョンマスターだが、正直どれだけ強いのか分からない。

 1つ言えるのは、お前たち1人1人よりは確実に強い。単騎でいったら勝ち目はない。必ず2人で当たれ」


「貴様もマスターであろう、個体によって違うのか?」


「確かに個体によって使うスキル、魔法は違う。流石に即死とかバカげたスキルを使う奴はいないだろうけど、気をつけろよ。

 あと俺は例外中の例外だな。他に俺みたいのがいるかも分からんけど、まずいないと思う。俺の弱さを当てにはするな」


「……あい分かった」

「……」


 2人は何かを呑み込みつつも、カズナの話を傾聴する。


「他には……そうだ、相手はトレント系の種族だと思う。火が利きそうだから、カリストよろしくな」


「言われずとも灰燼にしてやるわ」


 気合充分な彼女を見て、カズナは伸びを1つ。

 2人も立ち上がる。


「……私達が潜っている間、カズナはどうするの?それだけが心配なのだけれど」


「じゃな。貴様の弱さには、妾も頭を抱えたくなる」


「何だよ2人して。……照れるじゃねぇか」


「褒めてないわよ」「褒めとらんわ」


「ハハっ、息ぴったりだな」


「「誰がこんな奴と」」


「「あ?」」


 ガンを飛ばし合う2人に、カズナが爆笑する。


「ぃひひっ、腹いてぇ。

 ……ふぅ、俺は外で隠れてるよ。多分だけど、マスター同士が殺し合うような仕様なら、敵のモンスター殺しても迷宮素得られると思うんだよね。それでそれなりに強いモンスター召喚して守ってもらうから、中でいっぱい殺してきて」


「あい任せろ」


 カズナは胸を叩く彼女を心強いと思うと同時に、大事なことを思い出す。

 念には念を、だ。


「あ、忘れるとこだった。ヴィーネ」


「ん?」



「……幻覚魔法とか使える?」



 周りを見渡す彼は、綺麗に残っている女性エルフの氷像を2つ見つけ、親指で指さした。













【後書き】


 ……さて、分かった人もチラホラ出てきたんじゃないかな?( ̄▽ ̄)

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