第20話 グロいグロい血がやばい
――エルフの部隊が散開しようとした直後、仲間の1人が悲鳴を上げながら炎上した。
「「「――ッ⁉」」」
彼らは突然の攻撃に驚愕するも、即座に陣形を展開、一斉に矢を放った。
しかしその全てが、見えない壁によって防がれる。
だがそれは想定済み。隊長は弓を引き絞り、次矢を放とうとした。
瞬間、
「――っ⁉︎」
異形の眼球が血走り、その常軌を逸した怒気に気圧されてしまう。
同時に、隣に居た仲間が雷撃に打たれて飛び散った。
「……は?」
反対側にいた仲間が、風の刃に細切りにされた。
「なっ」
次いで、自分達を閉じ込めた空間魔法を解析していた4人が、
「シルエ隊長ッ!解けません‼︎固すぎまびゃっ」
輪切りにされ、
「ギャァアア⁉︎」
炎上し、
「カッはっ」
串刺しにされ、
「グピャッ⁉︎」
爆散した。
感知不可能な速さでの即死攻撃。無惨に散っていく仲間達。
今まで感じたことのない恐怖が、隊長、シルエを襲った。
「――ッウォオオオオッ‼︎」
彼は怒りと怖気から高所の有利を捨て、1直線で異形に向かって枝を蹴る。
その手に形作られる、特大の風の大槍を携えて。
「『ヴァンッ・ハスタァアッ‼︎』」
全力で投擲された大槍は、豪風を撒き散らし異形へと驀進する。
しかし次の瞬間、
「…………バカ、な」
空気を切り裂き唸る大槍は、絡まった糸が解かれる様に柔らかく、空中で消失した。
着地したシルエは目を見開き、あまりの実力差に言葉を失くす。
「……何者だ、何者だ貴様らッ⁉︎」
恐怖心を紛らわすように声を張り上げる彼はそこで、自分の頬に滴る、生暖かい何かに気付く。
四方の地面から天に向かって生える、鋭利な岩の棘。
自分に赤い影を落とす、何か。
「……」
シルエが視線を上げる、その先には、……無数の岩で串刺しにされた、弟がいた。
「――ッ貴様らァァァッ‼」
最愛の存在を惨殺され、彼の怒りが臨界点を超過する。
(ッッ殺してや――
胸中を殺意で埋め尽くすシルエは、しかし自身も気付かぬ内に圧殺され、汚い地面の染みとなった。
「終わりましたよ、カズナ様。……カズナ様?」
ラヴィナは淡々とした口調で、敵の排除完了を報告する。
なぜか自分から離れ、大樹に両手をつく彼に向かって。
……そんなカズナはと言うと、
「オロロロロッ、ゲェ、ウェエっ、あ、ありがぉロロロロっ」
様々な工夫が施された死体から目を逸らし、大樹の根元に盛大に養分を吐瀉し続けていた。
彼は朝食べたウインナーと涙目で見つめ合う。
「ふぅ、ふぅ、(人ってあんな風に死ぬのかよ、ヤベェ、トラウマ確定だこれ)」
ゆっくりと息を吸い、心を落ち着かせる。
「カズナ様?」
「スゥ〜、はぁ〜。(落ち着け〜、落ち着け〜俺〜。人が死ぬシーンなんてアニメで散々見てきたろ?)」
「カズナ様〜」
「……ウプ(やべ、フラッシュバック、吐きそ)」
「カズ、ナ、様」
「ふぅ、ん?おうすまん、ちょっと現実逃避を……って、なんで泣きそうなの?」
カズナは、目をうるうるとさせる彼女にたじろぐ。
「……無視は、傷つきます」
「ああごめんな、俺のこと守ってくれたのに。
……ありがとうヴィーネ、お前のおかげで俺は生きているよ。愛してるぜ」
「っ……はい」
途端涙を引っ込ませ、肌を若干朱く染める彼女。
カズナはそんな可愛らしい異形を見つめ、申し訳なさそうに苦笑するのだった。
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