第16話 旅立ち



「(流石に人型には出来なかったか)……人型になれたりする?」


「申し訳ございません、醜い我が身を御身の前に出すなど不敬」


「ああいいからいいからっ」


 自分の失態だと謝罪する彼女を、男は慌てて止める。


「お前は充分美しいよ。それこそ、この世の物とは思えない程にな!」


「……私などには、勿体なきお言葉。……有難き幸せでございます」


 またも深く頭を下げる彼女だが、その白銀の肌は仄かに赤みを帯びていた。


「よし、そんじゃ散策といきましょうや」


 男は満足そうに笑い、苔の丘をジャンプし、ずんずんと森の中に入って行く。


 その後を慌てて彼女が追いかける。


 「お待ちください。拠点も創らずに、尚且つ主が出歩くなど危険すぎます」


 「んなこと言っても、迷宮素全部使ったし、何もやることないからな。冒険したいし」


 「……全部、ですか?」


 彼女の無数にある目が、全て見開かれる。


 「おーよ。俺ぁ馬鹿みたいに弱いからな、仲間がいないと多分一瞬で死ぬ」


 手頃な枝を拾って振り回しながら進んでいく主を見ながら、彼女は思う。


 ダンジョンマスターとは、スキル、魔法、身体能力に於いて、全てが超人的な生物だ。

 そうまでして配下に迷宮素を使う必要はない。


 ましてやダンジョンに籠っていた方が、よほど安全だろう。


 しかしそこまで考えて、


(……違うわね)


 彼女は疑問を捨てた。


 主に疑問を持つなど不敬千万。

 自分を必要としてくれたという喜びだけを胸に刻み、命を懸けて存在を証明すればいいのだ。


 決心する彼女の心はしかし、


「そうだ、疑問に思ったことあったら何でも言ってくれよ」


 次の瞬間、その主本人によってあっけなく否定された。


「……私は貴方様のためならば、命を懸けて誤りを正しい事にして見せます」


「怖いわっ。

 そゆ事じゃなくて、俺はお前をブレーンとして生み出したんだよ。俺は馬鹿だから、きっとこれから沢山間違う。

 だからお前が俺の傍で支えてくれ、いいな?」


 男は振り返り、揺れる大きな瞳を真正面から見つめる。


「……はい、私などで宜しければ」


 俯く彼女に頷き、再び歩き出す。


「俺仲間とはフラットな感じでいきたいと思ってっからさ、だからお前も、そんな堅苦しくなくて大丈だぜ?」


「……善処します」


「おう、よろしく。俺ぁカズナだ。お前はそうだな……ラヴィナ、なんてどうだ?」


「……ラヴィナ……私の名前」


「どーよ」


「…………綺麗です」


 彼女は目を瞑り、

 与えられた名を噛み締める様に、微笑んだ。

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