第2章 異形の王

第15話 異形の者





 ――は清流が優しく水面を打つ音色を聴きながら、緑に染まりひんやりとした空気を吸い込む。


 苔むした倒木や岩に木漏れ日が反射し、穏やかな湖面がエメラルドに揺れる。


 湖から背を伸ばす数本の老樹と、周りに生い茂る、高さも幅も自分の知っている物とは桁違いな大樹が日光を遮り、幻想に満ちた空間を作りだしていた。



「…………はぁ、」


 随分と美しい場所に飛ばされたものだ。


 男はとりあえず、と苔で出来た丘に腰を下ろし、ダンジョンマスターの権限を手探りで行使する。


(最初はこれを消費して建てろってことか)


 男はふむふむと理解し、その上で召喚陣を起動する。


 そして隠し切れない笑みを浮かべながら、全ての迷宮素を注ぎ込み、スキルを発動した。



 望は、己の全てを補える賢識。

 遥けき彼方まで見通す慧眼。

 ある程度の武力。

 美女!美女‼



 願望をこれでもかと詰め込み、陣を起動。


 爆発的に膨張する漆黒の光が渦を巻き、主の望みを叶えようと天を貫く。


『やあ!神だよ』


「んあ?」


 そこで男は他のダンジョンマスター同様、神が事前に仕込んでいたメッセージを受信する。


『無事ダンジョンを建てられたみたいだね。おめでとう!』


(……いや、建ててないけど、……ダメだったのか?)


『それェでわ、私の予想ダダダと、ミミミ皆迷宮素がそれで私の予想だと10101010』


「何だ?」


 しかし途端ノイズが走り、聞き取り辛くなる。


(陣に干渉したせいか?…………無理だ。もういいや)


 理解を諦めた男は、次いで収束する漆黒の繭に目を戻す。


 初めての召喚。

 初めて見るモンスター。

 期待に胸膨らませる男の前で、漆黒が弾けた。



 ――それは……いや、彼女は、美しい佇まいでもって、していた。


 身体は雪の様に淡く輝く白銀色。


 形も雪の結晶を無理矢理球体にしたような、歪さの中にある精錬さが見て取れる。


 1番の特徴は、身体中に張り巡らされた、美しき大きな眼。

 1つとして、同じ色彩はない。



「産み落として下さったこと、望外の喜びでございます。我が王よ」



 彼女はしんしんと言葉を紡ぎ、頭?を垂れて最敬礼の意を示す。


 男はその姿見て、納得した。


(……これが『異形種』、か)


 男が引いたのは、1つとして同じ姿形のモノがいないと言われた、


『異形種』。


 モノによっては、生物かどうかすら分からないものも多くいたという。


 しかしどの個体も明確な強みがあったために、狩り尽くされるのに時間はかからなかった。


 そんな悲しい種族だ。

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