第13話 樹中激戦




 ――上下左右全ての角度から、予備動作無しに来る攻撃。


 加えて風魔法と魔花の攻撃が重なり、さながら絨毯爆撃でもされているかの様な地面を、


 女剣士は楽しそうに、されど汗を流し駆け回っていた。


 彼女の周りには陽炎が浮かび、空気が沸騰し煮え滾っている。


 近づくだけで大抵の攻撃は燃え散るが、リョウの魔樹だけは迎撃しないと防ぐ事は出来ていなかった。


 その光景を見ながら宙を飛び回る魔法使いは、表情1つ変えずに全ての攻撃を躱しきっている。

 しかし未だ一切手を出していないため、敵方から見れば1番不気味なのは彼女であった。


「ドーラ、まだいける?」


「っ勿論です!」


 攻撃を連発して息切れを起こし始めたドーラを、リョウは一瞥する。


 魔力切れが近いのだろう。

 大技を放ちながら、大量の眷属を召喚しているのだ。これ以上無理はさせられない。


 リョウは魔樹でドーラをフォローしながら、少し余裕のある頭を回転させる。


 誰が見ても優勢なのは自分達であり、敵の体力、あるいは魔力が切れるのは時間の問題だ。

 このまま押し切れば勝てる。


 ……しかし、気になる点もある。

 1つは何もしてこない魔法使い。

 2つ目は女剣士が剣を抜こうとしないこと。

 そして、これだけの絨毯攻撃をしているのに、2人とも1度も被弾していないという事実。


 自分には疲労感はあるも、まだまだ余裕がある。

 だと言うのに、嫌な予感がどうしても拭えない。

 早めにケリをつけよう。そう考えた、


 その時、


「……ねぇ、そろそろ手を出してもいいかしら?」


 魔法使いが口を開いた。


「……は?」


 驚いたのは女剣士だ。

 今の今まで何を傍観しているのかと思えば、手を出して良いのか?などと聞いてくる。


「あなたが、手を出すな、って言ったんじゃない」


 女剣士は思い出す。第2階層で自分が言った言葉を。


「貴様っ、それはあの1匹だけだろう⁉︎」


「知らないわよそんなの。説明力の欠如を人のせいにしないでくれる?」


「んなぁっ!」

「あら危ない」


 魔法使いは腰を捻り、打ち出された炎をひょい、と躱した。


 リョウとドーラは、緊張感の欠片もないやり取りに唖然とする。


「それで、良いのかしら?」


 済ました顔の魔法使いにムシャクシャし、女剣士は魔花を叩き潰しながら髪をワシャワシャと掻く。


「ああ、ああっ、手を貸せ!妾1人じゃ持て余すっ」


「了解」


「「――ッ⁉︎」」


 瞬間、空気がピシリ、と音を立てる。

 熱せられた空気が一瞬で氷点下まで下がり、ドーラとリョウの肌を冷気が突き刺した。


 途端、天井と床からぶっとい氷柱が生え、ドーラに直撃、腹と脚を吹き飛ばす。


「――ッグっ⁉︎」


「っドーラ!」


「大丈夫ですっ、回復可能な損傷です」


 そう言う彼女は、穴の空いた腹と消し飛んだ脚を即座に修復した。


 その光景を目に、魔法使いは一考する。


「……やっぱり、魔法で構築された身体なのね(ボソ)」


 安心するリョウは魔法使いを睨むが、当の彼女はそんな視線どこ吹く風、女剣士に近寄り、何かを耳打ちした。


「――。私が隙を作る」


「貴様に命令されるのは、腹が立つな」


「命令じゃなくて提案よ。やるの?」


「はっ、当然じゃ」


「最初からそう言いなさい」


「うるさいわっ」


 青筋を浮かべる女剣士は、両手を組み合わせ、次いで引き離す。

 するとその中心に、小さな火球が生まれた。


 煌々と脈動する火球は、大きさにして僅か数㎝。

 しかしその内部に渦巻くエネルギーは、今までの爆炎とは比較にならない。


「――っ」


 リョウとドーラも一目でヤバさに気付き、焦り攻撃しようとするが、


「ここら辺かしら」


 一瞬で女剣士の横から消えた魔法使いが、リョウの後方に位置する、ダンジョンの壁をぶん殴った。


「っ⁉︎」「なっ⁉︎(転移⁉︎それにあの場所はっ)――ッ」


 あの場所は、ドーラの本体を隠していた場所。

 何故バレた⁉︎振り返るリョウは、反射的に魔法使い目掛けて突進し、串刺しにすべく魔樹を乱れ打ちする。しかし、


「どうやらビンゴのようね」


 聞こえる声はまたも後方。転移で女剣士の横に降り立った魔法使いが、ニヤリと笑った。


「後ろを庇い過ぎよ」


「――ッッ‼︎‼︎」


 リョウは魔樹を圧縮し何100も重ね合わせ、不可侵のバリアを創り出す。


 刹那、



「『メルトバーン』」



 ――チュインッ――

 という鋭い音と共に、赫赫と輝く光線が空気を灼いた。


 途轍もない轟音がダンジョンを揺らし、リョウが衝撃に備える。


「…………?」


 しかし、数秒待てども盾への衝撃が来ない。

 一体何が起きたのか……、顔を上げ、音のした斜め上に視線を移すと、


「……嘘、だろ」


 そこには、ダンジョンを貫通し、外界の景色を映す大窓が出来上がっていた。


 外の巨大樹をも焼き切り直進した光線は、遥か遠くの雲に大穴を開けている。


 リョウは絶句する。

 自分では傷つける事しか叶わなかった壁が、融解し、ジクジクと悲鳴を上げている。

 こんな物が直撃でもしていれば、全力の盾と言えども無事ではなかった筈。


 冷や汗を垂らす彼は、そこで気づく。


「……ドーラ?」


 彼女の姿が、どこにもない。


「ドーラっ、ドーラ!っド――」


 叫ぶ彼の目の前に、何かが落下する。


 緑の髪を土煙に汚し、呻き声を上げる、何かが。


「っドーラ⁉︎」


 避難が間に合わず光線が直撃した彼女は、胸から下が消し飛んでいた。

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