第12話 謎の女



 ――彼女達が第2階層を通過した頃、スクリーンを見るリョウは唖然としていた。


「何だ、こいつら」


「……相当な手練れですね」


 ドーラも柔らかな雰囲気を仕舞い、スクリーンを睨んでいる。


 階層1つ丸ごと焼き尽くしたのだ。自分が強いと思っていたカシラなどとは、次元が違う。


 もしこのレベルが異世界の平均なら、正直マズイ。認識を改める必要がある。


「……」


 リョウは静かに拳を握りしめた。


 恐らく、いや、確実に、彼女達はここまで到達する。

 随分早い気はするが、この戦いが異世界初めての山場であることは、間違いない。


「……リョウ様」


「……うん」


 リョウは魔力を滾らせるドーラに頷き、席を立った。






 ――青葉と蜜の香りが地を離れ、そよ風の中に溶けてゆく。


 女剣士と魔法使いは、ヒラヒラと舞う自然の紙吹雪の中、部屋の中央に立つ目標を見据えた。


「……この匂い」


「ああ、大方麻痺やら睡眠の類じゃろう。小細工など労しおって」


 分かりやすく嘲笑う女剣士に、ドーラが顔を顰める。


 そこで小さく深呼吸したリョウが、土剣を構え1歩前へ踏み出した。

 続く2歩目の踏み込みを、


 しかし大きな笑い声が止める。


「クハハっ、そう焦るな。二、三言交わしても怒られはせんじゃろう」


 笑う女剣士に、驚くのはリョウとドーラだ。


 彼女の言っている言葉が、理解出来るのだ。


 口をパクパクするリョウに代わり、ドーラが前に出る。


「貴女、なぜ私達の言葉を喋れるの?」


「黙れ。妾が話しかけたのはそこの男じゃ。貴様ではない」


 女剣士は目すら合わせず、ドーラの問を切り捨てる。


 対するリョウは、大事な人を無下に扱われたことに苛立ち、女剣士を睨みつけた。


「……何だよ」


「いや何、これから死ぬ奴がどんなことを言うのか、気になってな?」


 それは問い掛けでも、会話でもなく、一切の混じり気が無い挑発。


 この女はそもそも、語り合う気すらない。


 ドーラは己が主人への愚弄にキレ、複数の風刃を放つ。


 空気を切り裂き女剣士に迫る、烈風の刃。


「……言語も理解出来ぬ羽虫じゃったか」


 女剣士は明確な苛立ちを乗せ、邪魔な虫を払う様に手の甲を振った。

 途端業火がうねり、風刃など瞬く間に呑み込みドーラに牙を剥く。


 しかし、


「――っリョウ様、感謝します」


 届くことは無い。


 空中から生えた樹木が何重にも重なり、バリケードを形成し彼女を守っていた。


「……」


「……チッ」


 魔法使いが目を細め、女剣士が舌打ちする。


 これこそ、リョウが1番力を入れ設定したスキル


『魔樹創世』。


 生物以外のあらゆる場所から、魔法植物を生やすことのできるスキル。

 空気とて、その例外ではない。


「……厄介ね」


「まったくじゃ!」


 彼女達は前後から音も無く突き出した鋭利な樹木を軽々と躱し、左右に分かれ飛び出す。


 女剣士は爆炎を撒き散らしながら地を跳ね、魔法使いは宙を飛びながら敵を観察する。


 樹木と炎がぶつかり爆発。

 煙が風に切り裂かれ、それすら炎が呑み込む。

 魔花が地面で暴れ回り、鬱陶しいと燃やされる。


 大樹の森の小さな木の中で、生死をかけた戦いが幕を上げた。


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