第10話 祝・初期ダンジョン完成
――盗賊達を抹殺してから、数時間が経過していた。
ダンジョンの最上階、リョウはドーラと模擬戦闘をしながら思考を巡らせる。
今までの検証で分かったことは、大まかに4つ。
1・迷宮素への変換基準は、配下が殺した場合。
ダンジョン内で死んだ場合。
そして当然、マスターである自分が殺した場合。
の3種だろうと予想する。
そしてそこに、対象が人間であること。が付随する。
隙間時間にドーラと外へ狩りに行ったのだが、野生動物を殺しても迷宮素は手に入らなかったのだ。獣はその後美味しくいただいた。初めてのサバイバル飯に、心躍ったのは言うまでもない。
2・殺した対象の魔力量が多ければ多い程、獲得出来る迷宮素も多くなる。
カシラと部下とでは、獲得量に凡そ10数倍の差があった。
この世界の一般人よりは部下の方が強いだろうし、どうやらカシラは本当に強者だったらしい。
3・自身の身体能力が、生前と比べ大幅に上昇している。加えて魔力もカシラを圧倒出来る位はあり、そこに神から貰ったスキルが加わるのだ。基礎能力値が馬鹿げている。こんなもの勇者も始まりの村で剣を捨ててしまうぞ。ゲームバランスどうなってるんだ神様?
4・ダンジョン内を自分好みに変えるには迷宮素が必要であり、そのレイアウトには、何と際限がない。
部屋の拡張、階層の増築に始まり、果ては林に森、川に海、街に国だって、あらゆる物を創り出すことが出来るのだ。
それらを好きな様に組み合わせ、自分だけのダンジョンを創る。
それこそが、今世に於いてダンジョンマスターがやるべき事であり、自分のやりたい事である。
――風の刃を躱し、一瞬でドーラに接近。腕を掴み、ぶん投げる。
体勢を立て直す前に土を操り、彼女の身体を拘束。
喉元に土剣を突き付けた。
「……参りました」
ごくり、と唾を飲むドーラが、呆れを含んだ乾いた笑みを浮かべる。
「まさか、ここまで手も足も出ないとは、……少し悔しいです」
「僕も正直驚いてるよ」
ドーラを解放し笑いかけるリョウは、その場にドサ、と座り、各階層のスクリーンを出す。
盗賊達を殺してから創った、渾身の初期ダンジョンだ。
第1階層は、マタンゴ種と魔花で埋め尽くしたキノコ花畑。
そこかしこにカラフルなキノコが生え、たまに土から抜け出し歩いている。妙に可愛い。
第2階層には、大きな水源と、そこから無数に別れる細い川が流れている。
川の周りに咲く魔花が、そよ風と小川のせせらぎに身を任せるその光景は、見る者の心を洗い、そして命諸共奪う。
水源の中央に浮かぶのは、個体名マリモリモ。3m超えのデカいマリモだ。
増築した第3階層は、唯の樹木に紛れ込ませたトレントの群生林だ。
余った迷宮素で林を創り、その中に数10匹のトレントを放った。
一目で違いを見極めるのは実に困難であり、油断した所を鋭い枝で突き刺す戦法だ。
そして今いるこの場所が、第4階層。最奥の花園だ。
まだまだ簡単な作りのダンジョンではあるが、ここから自分の物語が始まっていくと考えると、やはり何度見ても感慨深い物がある。
「ダンジョン内がどうかしましたか?」
「いや、戦闘中、改めてダンジョンのことを考えててさ」
ニヤつくリョウはしかし、隣から感じる威圧に振り向く。
何故だろう、ドーラのほっぺたが膨らんでいた。
「……私との戦闘中に、他のことを考えていたんですか?」
「え、まあ、……え?何で怒ってるの?(可愛い)」
そっぽを向いてしまうドーラに、リョウは焦りオロオロと謝る。
これだからインキャオタクは。と言われてしまいそうな光景に、彼女もクスり、と笑い上目遣いで迫った。
「っ⁉︎」
「いいですよ、許してあげます」
「あ、ありがと」
リョウは強調される胸元から必死に目を逸らす。
「そうですね。身体も動かしたことですし、ゆっくりと休みましょう」
「え、う、うん、……ちょ⁉︎何してっ」
自身の胸を腕に押し付けて絡めてくるドーラに、リョウの頭はパニックとなる。
「何って、ナニですよ」
「んな⁉︎」
「ふふふ、剣が首に来た時、怖かったんですよ?」
「え、いや、それはごめんてっ、ちょっ――」
あわや、リョウのダンジョンツリーが大惨事となるところで、
「ん?」
スクリーンに人影が映った。それすなわち、侵入者。
「……間の悪い」
リョウはドーラの小言を聞き流し、急いでウッドチェアに座り直す。
彼女との戯れが中断されたことに若干の寂しさを覚えながらも、
「今度はそれなりに楽しめるだろうか」
と期待し、スクリーンを眺めた。
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