しらたき

@momoke

第1話 ラジオノイズ


これは僕が中学生のときに授業で作ったラジオだ。

説明書通りに部品を組み合わせ、溶接をして、ラジオと呼べるものを作った。

スイッチを入れれば、人の声が聞こえてくると思っていたあの頃。放送局の電波にチャンネルを合わせるなんて知らなかった。ただくるくる回る部分を回して、聞こえてくるラジオを聞いていた。


あれから10年経って、今僕の目の前にはそのラジオがある。青色のカーペットの上に静かに佇むラジオ。

ネットと共に生活をするようになってから、すっかり存在を忘れていた。


春が近づき、気分転換に断捨離をしようとクローゼットのものを出していたらぽつん、と出てきたのだ。

必要ないものは全て捨てようと用意しておいたゴミ袋にすぐに入れなかったのは、穏やかだったあの感覚を懐かしさを思い出したからかもしれない。


ラジオを優しく手に取る。

プラスティック製のそのラジオは軽くて、外から見るだけじゃ、ただの箱と変わらない。真っ白くて、きれいなままだ。


アンテナを立てて、そっと、チャンネルを回す。

じりじりと音をたててゆっくりと回す。


ノイズも、何も聞こえてこない。

昼下がりの静かな住宅街に混じる声はない。


だけど、何度も回す。

どこかに僕の思い出があると信じて。





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