紫が春編 その2





「はっ!!」

 キジバトの鳴き声で飛び起きたある日の事。いつもと変わらない爽やかな朝のはずだった。下の階にあるキッチンから両親の喧嘩する声が聞こえる。いつもの事か。呆れた。私は、学校に行く準備をしなければならない。両親が喧嘩しているからって、私が干渉するメリットはなにもなし。


 

 制服に着替え、ローファーを履き、スクールバッグを持つ。朝ご飯は基本食べない。そのまま、家を出た。

「行ってきます...。」

誰も応えてくれないのはわかっている。それでも、どこにもないこたえを探してる。


 懐かしい気がする匂いがする晴れた日の事。私はいつものように1人で学校まで歩いていた。

「おはよう」

「ぎゃ!」

声を掛けられ、振り向くとそこにはクラスメイトの橘 双樹がいた。双樹は、悲しそうな顔をした。

「そんな驚くなよ」

「だ、だって!まさか、橘君がいるとは思わなかっただもん!」

私は、14歳で中学2年生になったばかりだ。橘君とは初めてクラスになった。席替えで隣の席になり、話すようになった。

「まあ、悪い...悪かったから許してくれ!」

「...はあ、わかりました。」

「っしゃ!」


 コロンっと、足元に何かがあたった。地面を見ると紫の水晶が落ちていた。紫の水晶の綺麗さに、心を奪われ、手に持ち空に翳した。日の光を浴び、とても美しかった。人生で初めてこんな綺麗なものを見たかもしれない。

「ちょっと返して」

「へっ」

後ろを振り向くと、茶髪で短く、ピンクの瞳を持つ女の子がいた。私と同年代くらいの。その子の服装は、私が着ているセーラー服とは全く違い、白いワイシャツに赤いネクタイ、黒いブレザー、黒いプリーツスカート、黒いタイツ、そしてボルドーブラウンのローファーを履き、ブラウンのサッチェルバッグを持っていた。きっと都会の子なのだろう。そう確信した。

「だ、誰なんだ!」

橘君が茶髪の子に聞くと、茶髪の子は橘君を睨んだ。

「貴方達に名乗るほどの価値は、ない。じゃあ、返してもらうから」

私から紫の水晶を奪い取り、そのまま何処かへ行ってしまった。私と橘君はその場で呆然とした。








「さあ、皆!今日は、この2年1組に転校生がいるから、紹介をする!」

担任の秋楡先生の言葉に、クラス中がざわざわする。転校生が来るなんて、聞いたことがなかった。秋楡先生がドアを開けると、転校生が入ってきた。私は、目を疑う。だって、登校の時に会った、ピンクの瞳の女の子だったから。転校生が女子の為、男子達は盛り上がっていた。


「初めまして。今日から、皆さんと一緒に勉強することになりました。石蕗 蓮と申します。これからどうぞ宜しくお願いいたします。」


自己紹介すると、自然に、拍手が教室に鳴り響いた。

「蓮さんはお嬢様学校から来たんだ。ネモフィラお嬢様学校から来たから、この雛菊中学に馴染めないところはあるかもしれないが、皆、この雛菊中学のことを教えてやれよ!」


 ネモフィラお嬢様学校のことは、話で聞いたことがあった。頭が良く、幼稚園から大学院までエスカレーター方式らしい。寮もあり、エレベーターやエスカレーターもあるらしい。そんないい学校なのにどうして、転校してきたのだろうと不思議に思う。

「席は、1番後ろの列の1番右の机が空いてるから、そこだな!」







「あの、転校生すげー、人気だな」

双樹がそう言う。私は、石蕗さんの席の方を見るとクラスメイトに囲まれていた。

「ねえ、あのネモフィラお嬢様学校ってどんな感じだった?」

「...」

「ぶっちゃけ本当のお嬢様って何人くらいいるの?」

「...」

「石蕗さんもお金持ちのとこのお嬢様なの?」

クラスメイトの女子が石蕗さんに対して、質問を投げかけていた。石蕗さんは答えずに無言だった。橘君が、席から立ち上がった。そして、石蕗さんの席へ向かった。

「おいおい、そんなまとまって質問なんて石蕗さんが可哀想だろ」

「橘君ー!で、でも」

「それに、まだこのクラスに馴染めてなくて、緊張してるだろうし、そんな状況から色々質問するのは早いと思うぞ」






 6時間目の授業が終わり、下校の時間。

「じゃあ、またな!井村!」

「またね、橘君」

橘君が見えなくなるまで、私は小さく手を振り続けた。やっと家に帰れる。と言っても両親は、絶対喧嘩をしているだろうから、家に帰れるが嬉しい訳じゃない。帰ることが嫌なわけでもないけれど。

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