幕間 生徒会長の苦悩
鈴木 拓哉は頭を抱えていた。
授業を終え、放課後に生徒会へ寄せられた事務作業を片付け、自宅という仮初の拠点へ戻ってくる。
マンションのワンフロアを買い取り、そこを丸ごと改造して住めるようにしたため、かなり広々としていた。
だがそれに反して家具はあまり多くなく、とりあえずとリビングに用意したダイニングテーブルに添えつけの椅子に腰かける彼は重く息を吐く。
考えるはここを軸として活動している、一人の少女についてだ。
実力はある、それだけならば問題ないのだが、何分気質があまりに人というものから逸脱しており、うまく溶け込めておらず、学校でも浮いた存在になってしまっている。
来た当初に武器を取られたからと、殺すまで追い込もうとしたときは慌てて止めたが、それがきっかけで問題児と見られてしまった。
加えて対象へ勝手に距離を詰め、顔見知りとなった上に話までしている事実に、拓哉は自分だってもっと話したいという欲が出てくるのを何とか抑える。
それくらいならまだ見逃してもいい、今日の昼にどこぞのアバズレに絡まれ、助けに入ったのも良くやったと手放しに褒めた。
だがその後に拐われたらしいと聞かされた時は、何を言っているのかと血の気が引いた。
『どういうことです? いえっそんなことより、今はどちらにいるのですか!?』
『はいっ指定された場所へ来たのですがいらっしゃらず、囲まれたので全員戦闘不能にしました。 何人かを尋問して場所を突き止めたので、後始末をお任せしてもよろしいですか?』
何かあっては遅いと指示を出そうとするが、呼び出された場所へ向かったが、対象はおらず、変な奴らに絡まれて倒し、尋問して場所を突き止めたので、あとはお願いしますと連絡を切られる。
慌ててそこへ向かえば、死体とまではいかずとも、虫の息寸前の男たちが倒れ伏し、数名は怯えきっていた。
本気とまでは行かないが、遊び相手にすらならなかったようで、男たちのことはともかくとして、この件が漏れないようにと仕方なく掃除をする。
済ませて帰り、連絡を待っているのだが、拓哉の下へ一向に報告が上がってこないので、心配で仕方がなかった。
何か良からぬことが起こっているのではと考え始めたとき、扉が開かれて入室してくる音が聞こえてくる。
どうやら無事に済んだのだろうと安堵しつつ、それはともかくとして報告の義務を忘れた彼女への小言は言わなくて拓哉が納得しなかった。
立ち上がり、玄関へ通じる廊下へと向かい同居人を出迎えようとする。
するとどうやら鉢合わせたのか、もう一人の声も聞こえてきたので、ドアを開けて声をかけた。
「おかえりなさい、キール。 ノルンさん、少しお話が――」
「どうぞ、力也様。 お上がりくださいませ」
「……えっと、あの、その」
「如何がされ、あぁっラディーヴァ卿。 いらしてたのですね」
一人は素直に、もう一人には言いたいことは山ほどあると言いかけたとき、拓哉は目の前を見て言葉を失ってしまう。
玄関にはちょいワル学生服の男があちゃあと言わんばかりの顔を浮かべ、同じく学生服の女性がすぐ後ろにいた誰かを丁重にもてなしていた。
そこには何故か、安否を今か今かと連絡待ちだった少年が唖然とした顔で凝視していたので、出迎えた彼は固まってしまう。
追い打ちをかけるように、彼の本名を当然のように口にする始末の、佐藤 明美ことノルンに声が出なかった。
「えっ……? あの、えっ……??」
「あ〜、そのっ……、すまん……。 実はちょいとあってだな……、なかったことや忘れてくれとか言っても、納得できないと思って、話をするために、連れてきちまった……」
「力也様、何もないところではありますが、どうぞ」
「あの、佐藤……、じゃない。 ノルン、さん? その前にしていただきたいことが……」
「はいっ何でしょうか?」
混乱する拓哉に男がすまなそうにしている一方で、明美は上がってくれて構わないと少年こと竜藤 力也を招き入れようとする。
それに対して顔を赤らめ、必死に逸して見ないようにしているのを少女はどうしたのかと聞いており、男がやれやれと頭を抱え、拓哉がふと視線を向けて愕然とした。
「なっ、なっ、なっ……!」
「? どうかされましたか?」
「どうかされましたか、じゃないでしょう!? 何ですかその格好は! 明美さん、力也さんは貴方のその格好に困っておいでなのですよ!」
「……?」
「あぁっもう! とにかく貴方は着替え、よりもまず汚れを落としなさい! 服を持って浴室へ!」
「分かりました、では力也様の案内を――」
「それはこちらでやりますから! 貴方はまず貴方自身のことを片付けてから来なさい!!」
力也の様子に拓哉が見たものは、明美の着ている制服が所々破け、肌がむき出しになっていたのだ。
幸いにも人の姿は保っているが、それにしては露出し、あまつさえ着るようにと強要した下着まで見えてしまっている。
思わず傍らの男を睨むも視線を逸らされ、ともかく着替えさせなければとアレコレと指示した。
ところが少女はそれを後回しに、力也の案内を優先しようとするのを罵声気味に止める。
ようやく、というには不服そうにする彼女は靴を脱いで室内に上がり、部屋があると思われる方向へ歩いていった。
「……あのぉ」
「――失礼しました。 見苦しいところをお見せしてしまい。 それから、大変恐縮なのですが、今しばらくこちらでお待ちいただけますか? すぐに準備いたしますので」
おずおずと話しかけられ、佇まいを直した拓哉は、もう隠す必要はないと割り切りとヤケクソ混じりで出ることにする。
経緯はどうあれ、ようやくの機会が巡ってきたのだと思うことにする、そう考えなければやってられなかった。
そんな彼の様子をすまなそうにしつつも、呆れてしまっている男の視線を無視して。
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