第二話 いつもと違う朝

ブーブーッ、ブーブーッ


「なんだ、もう朝か」



アラームに起こされた。

毎朝この国の全学生が経験している事だろうが、このアラームに起こされる不快感はどうにかならないだろうか。最近はテレビや動画サイトで流れるこの音ですら不快感を覚える。

まぁ不快に思うからこそ起きられるのであって、こんな朝早くに子守唄などを流された日には、僕は昼まで布団から出ないだろう。


文句を言いながらアラームを止める。



スマホを見ると新着の通知が1件。


「おはよう」


昨日電話した彼女からだった。

僕はベットから飛び起きた。

(後にも先にも僕が人生で一番早く動いた瞬間であろう。)


「夢じゃない! 夢じゃなかった!」


思わず声を出してしまった。


今朝の味噌汁がいつもの五倍美味しく感じた。



家を出ると、今日も暑いぜと言わんばかりに太陽さんが輝いていた。

いつもは辛く感じる突き刺すような日差しも、無駄に吹き出る鬱陶うっとうしい汗まで今日は愛おしく感じた。


すると運が良いのか悪いのか、彼女と通学路でばったり会った。


「お、おはよう」


いつもは気軽にふざけあって挨拶をしていたのだが、なぜか今日は恥ずかしさが込み上げて、ぎこちない挨拶になった。


「おはよっ」


彼女が言った。挨拶を聞いただけなのにドキドキする。学校まであと三分。

なにか話さなければ。三分も無言でいたら、昨日せっかく縮んだ気がした距離も元に戻ってしまう。


人生ゲームでよくある「振り出しに戻る」と同じ状況にはなりたくない。

人生ゲームですら最悪なのだが、これはリアルだ。一度でも後ろに進もうものならここまで戻って来れないかもしれない。そう考えれば考えるほど何を話せばいいかわからない。


「一時間目なんだっけ?」


僕が言った。なぜその話題を選んだ。

自分の中の自分が、そのチョイスだけは無いだろとツッコミを入れてくる。


「国語じゃない? 宿題やった?」


彼女が答えた。

宿題なんてやってるわけない。なんせ昨日は僕の人生の中で最大のビックイベントがあったのだ。ろくに寝れもしなかったのに宿題をやる体力なんてあったわけ無い。あと普通に忘れてた。


僕は彼女に宿題を見せて貰おうと思った。宿題を見せてもらい、更に彼女と距離を縮めようという作戦なのだ。

我ながら良いアイディアだった。


「やってないや」

「見せてくれてもいいよ?」


心の内に気付かれないよう、少しふざけて彼女に聞いた。


すると彼女は少し微笑んで、冗談まじりに言った。


「えー、どうしよっかなぁ」

「うそうそ、いいよ!」


どうしようかと言われた時には心臓が止まりそうだったが、それがなぜだか今日は幸せに思えた。


坂道の上で、日差しを身にまとい微笑む彼女は、直視できない程美しかった。

きっと彼女は僕の事をもてあそんでいるのだろう。朝から僕の心は爆発寸前だ。


そして会話をしている内に学校についた。人生で一番長い三分間だった。

学校に着くとすぐに仲の良い男友達に捕まった。ほっとした気持ちもありつつ、まだ彼女と話したかった気持ちもあった。僕の心はぐちゃぐちゃだ。


すると男友達が僕の肩に腕を乗せて、小さな声でささやきながら言った。


「あいつと仲良さそうじゃん」


僕は部活が同じだけだからと誤魔化しその男友達と教室へと向かった。


結局男友達とそのまま教室に行ったため、彼女から宿題を見せてもらうことができなかった。

僕はそれが少し悲しく切なかったが、

男友達の前でノート見せてと頼むには僕には勇気が無さすぎたのだった。

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