第16話 リカちゃん

 幼いとき、リカちゃん人形を持っていた。


 私のリカちゃん人形は、いつもシンプルな服を着ていた。


 いや、シンプルというより、非常に簡素な……いやいや、はっきり言おう。


 そこいらの布を切って貫頭衣かんとういにしただけの、穴居人けっきょじんそこのけの貧しい恰好をしていた。


 着せる物がなかった訳ではない。


 本体を買ったときのボディコン風の服もあったし、お店でねだって買ってもらったドレスが、3~4着はあった。


 でも、遊んでいるとき、汚れたりいたんだりするのがいやだから、という理由で着せなかった。


 いや、ここでもはっきり言おう!


 私はそのころから、貧乏性びんぼうしょうだったのだ。


 私はもっと大きくなってから、当たるという占い師に「あなたは一生、かねには困らない」と言われたことがある。


 どんな金持ちになれるのか、その時は喜んだが、一向に金持ちになれる気配がない。


 占いをまるまる信じてはいないが、よく考えてみると、「かねには困らない」と言われただけで、「金持ちになる」とは言われていない。


 つまり、収入が少なくても、貧乏性びんぼうしょうゆえに、支出がそれよりさらに少なければ、「かねには困らない」というわけだ。


 私のリカちゃんはドレスを着ることのないまま、人形遊びの時期を過ぎてしまった。


 それ以来、私が上等な服を着るのをためらっていると、母が、


「リカちゃんになるで!」


 と言う。


 貫頭衣かんとういのリカちゃんは、クセモノ! であった。 

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