第6話 文鳥

 私が小学生の時、手乗り白文鳥を飼っていた。


 名前は文吉ぶんきち


 ヒナをもらってきた、父の命名である。


 父はじめ、みんなオスだと思っていたので、その名前だった。


 ところがある日、文吉ぶんきちは卵を産んだ。


「メスやったんか……」


 命名した父が、一番ショックを受けていた。


 そして私に、言い訳するように言った。


「でもな、祇園ぎおん舞妓まいこはんとか芸妓げいこはんはな、ぽん吉、とか、ぽん太、とか、ぽん太夫たゆうとか、そういう名前もあるんやで。


 せやから大丈夫や」


 私は、文鳥の名前より、お父さん、それは祇園ぎおんで絶対にたぬきにかされとるよ、と思った。


 私と父は、クセモノ! であった。 

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