第4話 犬

 弟が、犬を飼っていた。


 雑種で中型犬。 昔のことなので外飼いである。


 コンクリートガレージの隅に置かれた犬小屋の前に、いつも寝そべっていた。


 季節の変わり目には、毛が大量に抜けるので、母が弟に言った。


ぇで、ぇで、犬小屋のまわり掃除が大変や。


 奥にふたつ、たまころ(キャスター)つけて、前を持って上げたら犬小屋、動かせるようにしてんか。


 そしたら、掃除しやすいやろ」


 弟は、『技術家庭』の技術の腕を発揮して、たまころをつけた。


 一家みんなで車で出かけて、帰ってきたら、近所の奥さんがあわててやって来た。


「お宅の犬、つなで犬小屋ひっぱって、そこいらじゅう走り回っとりましたで!」 


 たまころのついた犬小屋を引いて、ドンガラドンガラと嬉しそうに走る犬を見つけて、捕まえるのに、一時間かかった。

 

 私の母、弟、弟の犬は、クセモノ! であった。

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