第59話 閑話・使用人の話『Thunder』

 雷土咲綾の担当は、機材である。

 パソコンの設定はもちろん、組み立てや修理も可能としている。

 部品さえあれば、

 配信に関する機材周りのことならば、彼女は大体知っている。

 まあ、配信に関わらずパソコンのことに関しては詳しい。

 氷室理沙に切り抜きについて教えたりもしている。



 Vtuberについても、彼女は詳しかった。

 だから、彼女なりにアドバイスをしたりもした。

 特に、彼女が尽力したのは金野ナルキの炎上の件だ。

 文乃が提案した作戦は、Vtuberに詳しいと自負している咲綾からしても危ういものだった。

 それこそ、加減を間違えれば二人とも消し飛びかねないほどの。

 なので当初は反論しようとしたが、文乃の決意が固く、ここまでのラインならいいのではないかという助言にとどめた。

 結果として、それが功を奏している部分もある。

 


 正直、今の生活に不満はない。

 元々、パソコン関係の仕事をしていた彼女は、今の業務もそこまで困難ではない。

 さらに、同僚の二人や雇用主である文乃とも関係も悪くない。

 可愛いものが好きな彼女にとっては、美人な同僚もどこか不思議な雰囲気をまとった美少女の雇い主も見ているだけで満たされる存在だった。



 そんな彼女には、最近はまっていることがある。



「よっし、入れた!」



 それは、ゲーム配信へのスナイプである。

 スナイプと言っても、別に妨害のようなことをするわけではない。

 視聴者参加型の配信というのがある。

 ゲーム配信においてはパーティーメンバーや対戦相手を募集するということはままある。

 なので、狙いすましてタイミングを見計らって彼女はパーティメンバーに滑り込むことを頻繁に行っている。

 そして今日も今日とて、彼女はスナイプに成功していた。

 


「あー、今日もしろちゃんかわいい」



 パソコンの画面に映っているのは、Vtuber永眠しろ。

 現在、彼女の雇い主である。

 


 元々、メイド三人はモデレーターとして配信を監視するという役割を負っていた。

 だが、常にそれをしなくてはならないわけではない。

 特に、ソロ配信ではそこまでコメントも多くないので、少なくとも三人で対応する必要はない。

 なので、今は火縄がモデレーターとして不適切なコメントをブロックしている。

 

 そして氷室と雷土は休憩中であり、今は完全にプライベート。

 不快なコメントが目にはいればモデレーターとしての権限を行使することもあるかもしれないが、今は気にしなくてもいい。



 最初はただの仕事としてやっていたはずだった。

 だが、生まれて初めてVtuberの手伝いという特殊な仕事をすることになり、永眠しろの配信を聞くうちにはまってしまった。

 元々、Vtuberは好きであり、加えてがるる・るる先生のファンでもあった。

 彼女の可愛らしい絵柄は雷土にとっては好みドストライクであり、画集などを買うほどのファンだった。

 加えて、しろさんの配信などはかわいく、面白くて純粋に好きだった。

 今や、仕事関係なくプライベートですべての配信を観るくらいにはヘビーである。

 因みに、氷室はそもそも仕事でほぼすべての配信を観ており、火縄はプライベートではASMR以外観ていなかったりする。

 今、永眠しろがやっているのはFPSである、『ZENITH』。

 視聴者と遊ぶために、カジュアルマッチを回している。

 視聴者と交流しつつ、自分もゲームを楽しむという、配信者にはよくある配信でもある。



 そもそも、プライベートで一緒に遊べばいいじゃないかと思われるかもしれないが、そこはメイドと主、なおかつ配信者とファンの関係性である。

 そこの線引きだけはしっかりしていた。

 まあ、スナイプするくらいなら素直に遊んでほしいと言えばいいのだが、それはマナー違反だと彼女は考えていた。

 視点が、完全にファンである。

 ちなみにだが、プレイヤーネームを「ライトニングソイル」で固定しているせいで、永眠しろの有名視聴者と化していたりする。

 因みに永眠しろの配信では、視聴者参加型において同じ人が二回以上参加するのは禁止である。Vtuberの配信ではよくあることだ。

 なので、今日については一度限りのチャンスである。



【ライトニングソイルニキ今日もいるじゃん】

【マオ様もおるやんけ】

【Vtuber二人とチーム組めるの運勢強すぎるだろ】



 今回は、有名Vtuberであるマオ・U・ダイもなぜか参加しており、ライトニングソイルこと咲綾はまたとない幸運を楽しんでいた。

 仕事も、プライベートも。

 本当に充実していて。

 こんな日々がずっと続けばいいと、いや続けて見せると。

 咲綾は考えていた。



「待って待って、しろちゃん!そこ安全地帯の外だからあ!」



 なお一緒にマッチできた時間は、三分にも満たなかった。

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