第41話『家族の始まりと、意味深な応援』
「でも、私ラーフェさんには感謝していることが一つだけあるんですよ。まあ、それ以外は一切感謝とかないですし、何なら軽蔑してるんですけど」
「うーん、いいツンデレ。それで、何に感謝してるの?」
「……メンタルどうなってるんですか?まあ、あれですよ」
こほん、としろさんはわざとらしく、かわいらしく咳払い。
「がるる家っていう枠組みを
「あー、そんなこともあったね」
多くのVtuberファンの耳目を集める、がるる家というコンテンツ。
だが、がるる家という枠組みはどうして始まったのか。
それは、ラーフェさんが配信中にがるる先生に通話をかけたことから始まったらしい。
フットワークの軽いラーフェさんは、それこそ他のVtuberなどを突発でコラボすることが多々あった。
それゆえに、がるる先生もその標的になり、電子の海に彼女の声が乗った。
結果として、その配信は大いに盛り上がり、ラーフェの説得によりVtuberがるる・るる先生がデビューした。
それ以降、がるる先生とラーフェさん、マオ様、そして羽多さんの四人でコラボをすることも増えたのだそうだ。
それこそ、しろさんがデビューする前に一度歌リレーを開催していた程度には。
そうして、誰が呼び始めたかは定かではないが、自然とコラボ名として『がるる家』という呼び名が付けられた。
つまり、がるる家というコンテンツの起源は、目の前のサキュバスだったりするのである。
そういう意味で、本心からしろさんはラーフェさんに感謝している。
まあ、先ほどのセクハラのせいでマイナスに傾いている感は否めないけど。
「別に、ただ必死だっただけなんだけどね」
「必死、ですか?」
「私の性格的に、ガチ恋勢を抱えてっていうのは難しかったからさ、とにかくそれとは別の方法でファンを増やそうって考えて、いろんな人とコラボをするのが最善だと思っただけだよ」
彼女は、ビッチなどと呼ばれていることもある。
それは、あまりにも多くの人とコラボをすることと、猥談が多すぎることが原因である。
けれど、猥談が多いのも、多くの人とコラボするのも、ラーフェさんなりの戦略だったのだ。
Vtuberは多様性、とよく言われる。
素晴らしい言葉に聞こえるが、それは多様性を出さなければ生き残れない環境、ということでもある。
各々が、自分だけの武器を持ち、磨かなくてはいけない。
しろさんには、様々なASMR企画と、早音家によるサポートが。
がるる・るる先生には画力と、イラストレーターとして積み上げた知名度がある。
そして、ラーフェさんの場合は下ネタ、発狂、暴言といった倫理コードすれすれの芸風と、誰とでもコラボする積極性が武器だったということだろう。
実際、しろさんみたいにどうしても積極的になれない人はいるからね。
「しろちゃんも、すごいと思うけどな、私もASMRやっているけど、正直君ほどうまくできてないし、頻度もそこまで高くないし」
「ラーフェさん、ASMRのアーカイブ残さないですよね」
「耳舐めとか、過激な奴は事務所の方針でアーカイブ残せないんだよね」
「あー、企業はそういう難しさもありますよね」
しろさんやナルキさんのような個人勢と違い、企業勢は事務所の方針とすり合わせる必要が出てくる。
まあ、ラーフェさんについてはここまでのびのびと活動させてもらえるのであればもういいような気がするけどね。
耳舐めより、下ネタとかセクハラの方がまずくないですか?
まあ、BANのリスクがある程度存在するから仕方ないけどね。
ちなみに、しろさんはまだアーカイブがBANされたことはないが、ナルキさんはあるらしい。
余談だが、私も、コラボ相手について知っておきたいという理由でラーフェさんの耳舐めASMRを一度だけ聞いたことがある。
一度だけ、というのはその後しろさんがものすごく不機嫌になってしまったのでそれから聞いていない。
「そういえば、台詞リクエストがあるんだよね?」
「ええ、まあ、せっかくなので何かありますか?」
「ふふふ、そうだなあ。やっぱり応援してほしいかな、って」
なるほど、まあこのセリフを見ると確かに応援の意味はあるとは思うのだが。
なんというか、これは。
配信で、言っていいのだろうか?
直接的ではないから、大丈夫だとは思うのだけれど。
「これ、大丈夫かな?」
『まあ、配信がBANになるようなことはないと思いますけど』
「じゃあ、やろうかな」
通話アプリに送られてきた文面に、私がチェックを入れる。
まあ、直接的なことは何も書いてないからね。
あと、視聴者の助かると思う。
理由は説明できないが。
【一体何を指定したんだ?】
【なんだかわかった気がする】
【何か知らないけど、ラーフェに感謝したほうがいい気がしてきた】
◇
「じゃあ、行きますよ」
少し間をおいて、しろさんは言葉を発する。
ダミーヘッドマイクである私に、そして視聴者に対して。
囁き声で、しかしてどこか力強く。
癒すように、励ますように、あるいは愛おしさを注ぐように。
「フレー、フレー、イケ、イケ、頑張れ、頑張れ、イケ、イケ」
…………思考が、止まった。
ないはずの心臓が、動かなくなる感覚を得た。
【おいおいおいおいおいおいおい】
【がんばれがんばれはまずい】
【これはセンシティブすぎる】
【えっっっっっ】
【えちちちちちちちちち ¥3000】
【¥20000】
【うっ】
『ふう……』
「待って待って、みんな何でそんな反応してるの?」
さて、セリフリクエストした当の本人の反応はどうかというと。
「ぶふう、ぶふう、いい、いいねえ」
『「……今なんて?」』
いや、本当に何を言っているの?
およそ淑女が出していい声じゃないと思うんだけどな。
完全におじさんの声なんだが。
しろさんは、未だに困惑していた。
「あの、結局このセリフどういう意味があったんですか?」
「……し、知らないなあ」
「嘘ですよね?本当はどういう意味なんですか?ただの応援じゃないですよね?」
「……じゃあ、お疲れさまでした。誕生日おめでとう!」
「え?あ、切られた」
【逃げられてて草】
【今日の凸待ちこんなんばっかりだな】
【ラーフェさん、いい仕事したよな】
【ありがとうありがとう】
【最高過ぎる】
【……ふう】
「……というわけで、次の方が来ているので、来ていただきましょうかね」
なんというか、本当に嵐のような人だったなあ。
悪い人ではないんだけどね、いや本当に。
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