第16話『ルール説明』

 ともあれ、そんな事情で、友達はいないものの麻雀のルールは知っているし経験も多少はある。



「やっぱり君さあ、人たらしだったんじゃないの?」

『いや、なんでそうなるんです?』

「だって、普通に人間関係を構築しているし、何より人の心に敏感だし……」

『まあ、それはですねえ』



 文乃さんには、友達がいなかったと説明している。

 実際いなかったし。

 ただ、文乃さんと私では「友達がいない」の理解の仕方が違う。

 私の経験は、バイトなどで忙しすぎて誰かと仲を深めることができないというパターンだった。

 それに対して、文乃さんの場合は、いじめに遭っており、味方が一人もいないが故の「友達がいない」だった。

 彼女にしてみれば、私は人間関係について大成功を収めているように見えるのだろう。

 実際そんなこともないんだけどね。



『まあそれに、人の心がわかることが必ずしもいいこととは限りませんから』

「そうなの?」

『ええ。私の勘は時折相手が隠しておきたいことまで見抜いてしまうので』



 幸い、そういうトラブルが起こったことはない。

 元々、父を刺激しないために、爆発させないために発達した勘であるがゆえに当たり前と言えば当たり前だが。

 相手の心の、弱いところに触れないように立ち回るために発達した勘。

 だから、勘が原因のトラブルが起こったことはない。

 とはいえ、使い方次第ではトラブルを起こすことも可能だったかもしれない。

 少なくとも、勘で得た情報を全て相手に伝えてしまえば、一日に一度はトラブルになっていたはずだ。

 閑話休題。




「まあ、とりあえずわかったよ。どういうゲームなのか、教えてくれる?」

『いいですよ』



 ここで、麻雀のルールを説明しよう。

 まず、東西南北、三元牌、萬子、索子、筒子などといった麻雀牌がプレイヤー全員に十三枚ずつ配られる。

 三元牌は何も書かれていない白と呼ばれているもの、緑の字でハツと書かれているもの、赤い字で中と」書かれているものがある。

 萬子は、漢数字が書かれた牌であり、索子は緑色の植物などが描かれた牌、筒子は対応する数字の分だけ丸が書かれた牌となっている。



 プレイヤーは、十三枚の手札、もとい手牌を最初に持つ。

 そして他の牌がある山から、自分の番に一枚の牌を引く。

 そして、十四枚から、一枚を選んで捨てる。

 これを繰り返すことで、点数を得られる「役」を作っていくことになる。

 誰かの役が完成すると、その時点でその番は終わり。

 手牌も山もリセットして、また同じことを繰り返す。

 ゲーム終了の基準は場合によって変わるため一概には言えないが、条件を満たせばゲーム終了となる。

 最終的に、得た点数の最も高いプレイヤーが勝ちである。

 ざっくり言うと、少し複雑なポーカーといったところだろうか。

 あとは、四人または三人でしかできないことも、ポーカーとは違うんだよね。

 ポーカーだと、一対一でやるとか全然あるみたいだし。

 そうそう、ポーカーについてもサークルの先輩に教わったんだよね。

 そういう悪いこと全般、ざっくり教わった。

 まあ、そういう話もできたほうが就職とかそののちに役立つのは間違いない。

 ……少なくとも、接待では役に立った。

 なんというか、そもそも接待自体やりたくはなかったんだけどね。



 中国発祥の遊戯ではあるが、少なくとも日本ではおじさんのゲームというイメージが強かった。

 かくいう私もその一人である。

 大学時代、同級生や先輩に教わって覚えた。

 雀荘の中は煙草の臭いがひどく、おじさんたちの威圧感がすごかったことを覚えている。

 そんなイメージゆえに、若年層の間ではあまり流行っていないものでもあった。

 少なくとも、私達ぐらいの年齢では女子高生が麻雀をやるというのはまずありえないという共通認識だった。

 だが、この『天域麻雀』がその現状を変えた。

 配信者がこのゲームを通じて麻雀を学んだり、そもそもキャラクターがかわいいという理由で普通に流行っていたりしているようだ。

 私は見ていなかったけど、結構Vtuberさんの中でもやっていたり、なんならナルキさんみたいに麻雀をこれで覚えたという人も多いみたい。

 



 『天域麻雀』には、ドラ(追加で獲得できる点数が増えるボーナス牌のこと)を点滅させてわかりやすくする、上がれるタイミングを教えてくれる、など、ポンやチー、カンができるように牌などといった程度のアシストもある。

 オンラインのボードゲームは、将棋やオセロなども含めて初心者でもプレイできないと人口を確保できないため、こういうアシストがついていることが多い。

 加えて、対局中には役の一覧表を見ることもできる。

 こういうサポートも含めて、初心者でも始めやすいゲームではあるだろう。




 『天域麻雀』は、結構な人気があるし、私が死ぬ前の時点でもそれなりに実況しているVtuberさんたちはそれなりにいたはずだ。

 どうやら、いまでもその人気は健在、いやそれ以上に盛り上がっているらしい。

 一応、しろさんも私も、Vtuberの配信を観ることはそれなりにあるため、『天域麻雀』という物自体は知っていた。



「一応、アカウントを作っておこうかな」

『それがいいと思います良ければ、そこらへんの手順も私が教えましょうか?』



 多分だけど、以前別のオンラインゲームに登録したことが昔あったはず。

 ほとんどプレイしていなかったが、やり方はたいして変わらないだろう。



「いいの?」

『いいんですよ。あなたのための、私ですから』

「ふえっ」



 顔を真っ赤にして、彼女は画面に向かう。

 メールアドレスを登録して、アカウントを作成しようとしているのだ。

 これ、私のアドバイスいらないかもしれないな。



「へ、変なことを言わないでくれよ!なんというかね、そうやって口説くようなことをバンバンと言ったらだめだよ?」

『いいじゃないですか。それに』

「それに?」



 文乃さんは、可愛いらしく小首をかしげる。

 少しだけ、緊張した状態で声を発する。



『ちゃんと言わないと、伝わらないこともあるでしょう?』

「……そうだよね。うん、そうだ」



 以前、言うべきことを言わなかったがために、彼女と私の間には誤解が生じていた。

 そして危うく、関係が破綻する所だった。

 その時、関係を維持できたのは私も彼女も、本音を打ち明けあったからだ。

 だから、私はしろさんに、文乃さんに。

 好きだとか、愛してるだとか、毎日いうのだ。

 伝えるのだ。



「私も、好きだよ」

『……ありがとうございます』



 その後は、これと言って気恥ずかしい会話はなく。

 『天域麻雀』を軽く触って、私が麻雀のルールや、役を教えて。

 CPUと、対局をしてもらって、コツをつかんでもらって。

 そうして、一日は終わった。

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