第6話『オープニングトーク』
「はい、始まりましたー。ご主人様、こんなるきー!メイドVtuberの金野ナルキです!今日はね、うちのチャンネルに生きのいい新人さんが来てくれております。お呼びしていきましょう、永眠しろさーん!」
「はい。こんばんながねむー。死神系女子高生Vtuberの永眠しろと申します」
【きちゃ!】
【二人ともかわいい!】
【しろちゃん頑張って!】
待機時点から流れていたコメントは上々。
しろさんとナルキさんのファンが入り混じっており、人が、いつもより遥かに多い。
おそらくだが、ナルキさんの普段の配信より多いのではないだろうか。
ともあれ、滑り出しは順調と言っていいと思う。
「いやあ、緊張してますか?しろさん」
「はい、かなり緊張しています」
「……そう?打ち合わせでは結構がちがちだった気がするんだけど、今は大丈夫じゃない?」
「それならよかったです。配信しようってなると気持ちが切り替わるんですよね」
「あー、そういう感じなんだね」
【全然ものおじしてないな】
【チャンネル登録しました】
【初対面なのに、ちゃんと流ちょうに話しててすごい】
【普段しろちゃん敬語そんなに使わないから、新鮮】
コメント欄の反応も、悪くない。
名前を見るに、ほとんどの視聴者はナルキさんの視聴者なのだろう。
まあ、登録者数を考えれば、順当だろうね。
ましてや、しろさんのファンって、九割くらいはASMR配信しか見てないし。
他のチャンネルでのコラボ雑談に、興味を示すとは思えない。
もちろん、しろさんの視聴者もある程度はいるけどね。
まあ、逆に新しく視聴者を呼び込めると考えることもできるか。
「今回は、視聴者の方々から事前に募集していたマシュマロを読みつつ、楽しくおしゃべりしていこうと思います」
「はい、よろしくお願いします」
【コラボするに至った経緯を教えてください】
今までの対談のアーカイブを見た感じ、おそらくは定番の質問。
というか、毎回こんな感じのマシュマロが取り上げられていた気がする。
まあ、アイスブレーキングとしては悪くないお題だと思う。
相手が誰でも通用するから、汎用性が高いというのも高得点だ。
「これはねえ、まあいつも通りと言えばいつも通りなんだけど。
「この件について、一つ謝らないといけないことがあるんですよね」
「え、何かあった?」
「いや、メッセージに返信するのが遅かったんですよ。確か丸一日くらい寝かせてたと思います」
「あー。でも一日くらいならそんなに遅い方でもないけどね。全然、一週間帰ってこないとかざらにあるから」
「……そんな人いるんですか?」
「いるんですよねえ、これが」
「ええ……」
『ええ……』
いや、普通にドン引きだよ。
仕事の連絡って、休日とかは仕方ないとしてもそれでも一週間はないだろう。
なんなら、プライベートと考えても、遅いくらいだ。
ちなみにだが、文乃さんはかなり連絡はまめなタイプだと思う。
少なくとも、ナルキさんやメイドさんたちとのやり取りを見せてもらった限りではそのはずだ。
別に私やメイドさんたちがアドバイスしたわけでもなく、単純に人を待たせるのが嫌なんだとか。
そういう心根の子だから、こうしてVtuberになったんだろうけど。
これは仕事先だけではなく、ファンに対しても同様だ。
流石にファンも増えて、全てのコメントやリプライに返信をすることは難しくなってしまったが、それでも出来る範囲で交流を図っている。
そういう姿勢こそが、彼女が彼女たる所以だと思う。
まあ、その結果悪口を言われてへこんだりするので諸刃の剣でもあるが。
「ところで、しろさんってコラボ今まで誰ともしたことなかったじゃない。何で受けてくれたの?正直コラボNGなのかなーと思ってたりもしたんだけど?」
「ええと、そもそもコラボNGだったわけではなくて、ただお誘いが今まではこなかったので」
「あー、そういうことか」
「それで、お誘いが来たので、まずどういう人なんだろうと思って、配信とか、アーカイブとかチェックしてたんですよね」
「あーそれで返信が遅れたんだね?どういう人かわからないと、コラボできないから」
「はい、じつはそうなんです」
【いい子やん】
【しろちゃんらしいな】
【真面目な子なんだね】
「ちなみになんだけど、どれを観たのか教えてもらってもいい?」
「ええと、ASMR配信を観させていただきました」
「あ、え、それ?」
「ASMR配信を観て、聞いて、勉強させていただきました。素晴らしかったです」
「あー、うん。直接言われるとなんだか恥ずかしいなーって」
ASMRって、結構恥ずかしいって言うよね。
しろさんは、あんまり気にしていないみたいだけど。
感想を言われて照れることはあっても、男性の意識が宿った私に声を囁くということへの羞恥心はあっても、ASMRをすること自体への照れはないと思われる。
まあそもそも、褒められること全般が苦手だったから、逆にASMRをやることそのものについては羞恥心が働かないのかもしれないけどね。
「ええ、良かったら、今後もまた誘ってください」
「お、いいの?コラボASMRとかやっちゃう?」
「ええと……。それはちょっと考えさせてください」
「なんでだよお!」
【草】
【やんわり断られててワロタ】
【オフコラボはハードル高いでしょ】
最初は大丈夫かな、と思ったがテンポよく会話が続いている。
一瞬、妙な雰囲気になりかけたというのに即座に切り替えてちゃんとコラボするというのは流石に二人ともプロである。
コラボ配信の時間は、一時間と決まっていたはず。
この調子なら、時間が過ぎるのはあっという間ではないだろうか。
そして、もう一つ。
しろさんの纏う空気が、先ほどより良くなっている。
おそらくだが、こうやって話すうちにナルキさんへの警戒心や忌避感が薄れている気がする。
単純接触効果というやつか。
効果が出るにはいささか早い気もするが、まあ人とのかかわりが薄いしろさんならそんなものかもしれない。
この変化がよいのか悪いのかは、まだわからない。
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