第14話 原石

「た、助けろぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


叫んでいるバッカスをとりあえず無視して固まっているマーズに声をかける。


彼女は一応戦えると言うだけで冒険者としての活動はあまりしていないらしく、この状況を見てどうすればいいか分からないのだろう。


「行くよマーズ」


そう声をかけて俺は先に走る。


「あ、あぁ」


少し遅れて付いてくるマーズからデスワームに視線を戻して考える。


(頭の方はバッカスに夢中になってはいるが、尻尾はこちらを警戒しているな)


今も尚デスワームはバッカスを食べているが、尖った尻尾はこちらを向いておりそれ以上近付くな、と威嚇しているように見える。


だが、距離を詰めてみなければ何も始まらない。

俺の魔法はまだ実用レベルでないからだ。


「ウギャァァァァァアァァァァァ!!!!!!」


バッカスの悲鳴が上がる。

見ているが更にデスワームの牙が腹にくい込んでいるようだ。


「……」


神経を研ぎ澄ませてデスワームに近付くが、


「シャァァァァァァァ!!!!」


攻撃範囲に入った俺に牽制で尻尾で突き刺そうしてきたデスワーム。

それを避けて


「甘いな」


剣を上から下に振り下ろして尻尾の切断を狙ったが。


「硬いな」


俺の剣は通らなかった。


「シャァァァァァァァ!!!!」


そのまま横凪に尻尾を振るデスワーム。

予備動作を見てしゃがんで回避。


尻尾が通り過ぎるであろうタイミングで立ち上がりそのまま頭の方に向かうが、デスワームはそれを見てバッカスを吐き出して


「シャァァァァァァァ!!!!」


その巨大な口で俺に噛み付こうとしてきた。


「頭を殴らせに来たのか?」


しかし、まぁ。

頭の硬さがどの程度か分からない以上はとりあえず横に避けてから、剣を上から下に振り下ろす。

尻尾と違って少し剣が通った。


「通ったな?」

「シャァァァァァァァ!!!!!!!」


血を吹き出しながら暴れ出すデスワームの首を切り落とすような勢いで更に力を加えていく。


「ァァァァ……」


やがて断末魔を上げてその場に身を横たえた赤いデスワーム。

砂埃が舞い上がる中俺は近付いて最後までデスワームの首を切り落とす。


中途半端に生きられていて起き上がられても面倒だ。

確実に絶命したのを確認してから俺は先程道を開けたデスワーム達に目をやるが、こちらに近付いてこようとはしない。


「く、クロノ……すごいな」


反対に近付いてきたマーズに指示を出す。


「とにかく、先に奴隷達の様子を見よう。生きているやつがいるかもしれない」


周囲のデスワームを警戒しながらマーズと共に寝かされている奴隷達の方に向かう。


近付いて軽く生存確認をするが、ダメだな


その時遅れてやってきたバッカスが口を開いた。


「おい、奴隷。とっとと原石を探せ」


こいつに命令されるのはしゃくだが、他にできることもないし俺はクリスタルの原石を探すことにした。


細かい奴隷達の生存確認はマーズが行ってくれるらしいし。

しかし俺の方では原石を見つけられなかった。


しばらくして俺はマーズの元に帰ってきた。

マーズは一応生存者を見つけていたようだ。


その顔には見覚えがあった。

俺たちによくしてくれていた女の子だった。


そのとき


「ふん。やはり捜索スキルのない貴様では荷が重すぎたようだな」


同じようにニヤニヤしながら帰っていたバッカスの手には原石が握られていた。


「それにしても痛いな」


呟いてバッカスは自分の体をヒールした。


デスワームに噛まれて空いていた腹の大穴が塞がれていく。


流石帝国所属の兵士といったところか。


クリスタルの原石があればこんなふうに自分の体のヒールくらいは簡単にできる……というわけらしい。


クリスタルには所有者の力を強める効果がある。


「バッカスさん。この子のヒールを頼めないか?」


俺はそう言ってまだ生きているが大怪我を負っている女の子のヒールをバッカスに頼んだが。


「何を言っている?奴隷の命など安い。私に手間を取らせるなよ。ゴミの分際で。何をつけあがっている?私と任務に出られたことで調子に乗っているのか?」


鼻で笑うバッカス。

そう言えばそうだったな。


こいつは元々差別主義者。

こんなことも当然のように口にするか。


「バッカス。私からも頼む」


マーズもそうやってお願いするが首を横に振るだけのバッカス。


「ふん。話になりませぬなぁ?マーズさん?」


そうして下卑た笑みを浮かべるバッカス。


「そのようなゴミを救うのであれば、何か私にも見返りがないとですな?」

「何を望む?」

「私と結婚する、というのはどうでしょう?」

「は?」

「この帝国は世襲制だ。私がこれから貴族になるのであれば、貴族と結婚する、それくらいしか道がないのですよ」


こいつ……。

自分が貴族になりたいという理由だけでマーズと結婚するとか言ってるのか?


「その見返りとしてそこのゴミにヒールをしてやらんでもないですよ?」

「……わ、分か……」

「何ですかな?最後まで言ってくれないと、ですな?」


貴族の世界のことなんて分からないけど。

でも分かることが一つだけある。


こんな差別主義者を貴族にしてはいけない、こんな奴を人の上に立たせてしまえば終わる。


ということだけははっきりと理解できた。

俺はマーズの手を取る。

驚いた様子で見てくるマーズに答える。


「だめだ」

「し、しかし、この子が……」


奴隷の子を見るマーズ。

女の子はかなり酷い怪我を負っていた。


「奴隷の分際で何を邪魔している?」


バッカスが俺に目を向けてきた。


「この場でそのゴミをヒールできるのは私しかいないだろう?だからマーズさんは私に頼んできた。奴隷のお前には分からないかもしれないが、普通は何かをしてもらうのなら見返りが必要なのだよ」


その言葉を聞いて俺はマーズに目を向けた。


ここで恩を返そう。


「ここで受けた恩を返すよマーズ。俺は君に助けてもらった。その恩をここで返す」

「な、ど、どうやって?」


答えは決まっている。


「バッカスにヒールをさせる。俺と模擬戦をしてくれ。俺が負ければあんたの奴隷になろう。」


そう言って自分の手に刻み込まれた奴隷紋を見せた。


「この紋章をあんたに捧げよう。バッカス。その代わり俺が勝てばその子をヒールしてくれ」

「お前何を言ってるのか分かってるのか?」


バッカスの言葉に頷く。

こいつは差別主義者だ。


俺はゴミであり見下す対象。

つまり俺がこうやって条件を提示すること自体をそもそも快く思っていないし不快に思っているはずだ。


そしてこうも思っている。


自分が圧倒的な存在であり、目の前のこのゴミをねじ伏せて自分の力を刻み込んでやる、と。


「いいぞ、ゴミ。お前の提案受け入れよう」


ほら、扱いやすいやつだ。


「だが一つだけ条件を変えよう。奴隷、私が勝てばお前を殺す」


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